今日は聖なる夜、クリスマスである。
雪が降りしきる中、クリスマスツリーが飾り付けてあり、煌々と光を発していた。
私はその眩しさに目を背けた。
今の私にとって、その無垢な眩しさは目に沁みるだけだった。

寒空の下、私は白い息を吐いて自分の家に戻ろうと足を進めていた。
その足取りはとても重たいものだった。
少なくとも、雪が積もっていて歩きにくい訳では決してない。

「レッド……」

私はおもむろに、大好きな彼の名前を呟いた。
彼はバトルが好きで、リーグで優勝した事もある実力派のトレーナーだ。
私と彼は付き合っている。それなのになぜ聖夜に彼と居ないかと言うと、それは彼のバトル厨が原因である。

シンオウでは今頃の時期にポケモンリーグを開催している。
それ故に彼はシンオウに飛んで行ってしまった。彼女である私を置いて。
いや、ちゃんと私はレッドがシンオウに行くことを許可はしたのだが。
まさかこんなにも淋しい気持ちで一杯になるとは、その時のバカな私は想定もしなかった。

隣に彼がいない事が、こんなに淋しいなんて──

私の気持ちは沈んでいくばかりだった。
冷たく、凍えていく体と心。なんで、どうして私は弱いのだろうか。
代わりに明日クリスマスパーティーをしてくれると言ってくれていたのに。
何の不満があるというのだ。

確かに、シンオウのリーグをテレビ等で見れる訳ではないから、それは淋しいがレッドが全力で、そして楽しんでバトルをしている事なんて彼女である私はわかっているはずなのに。
それは何にも変えがたい位に嬉しいはずなのに。
それなのに、やっぱり心は沈んだまま。

私はポケギアで時刻を見る。
11時57分。もう少しで聖夜な夜は明けてしまう。
ふと、私の頬に生温い雫が伝った。

「あ、れ……?」

私、泣いてるの?

ごしごしごしごしとコートの袖で涙を拭うが止まらない。
涙が、止まらない……!

「レッドぉ……」

やっぱり、クリスマスである今日、側にいて欲しかった……。
たった今ちらほら降ってきた雪の結晶が涙が伝う頬に落ちて、溶けた。
思わず膝を抱えてしゃがみこんでしまう私。

見て、ホワイトクリスマスだね、とか、今日はいくらでもケーキを食べて太っても良いんだよ、とか、こんな雪の降るクリスマスにバトルも良いねぇ、とか話して過ごしたかった。
子供みたいな貴方の笑顔が見たかった。

レッドにとってはシンオウのリーグで戦う事の方が楽しい事なんてわかってる。
それでもッ、それでも……私はレッドの側で聖夜を過ごしたかった。

涙が地面に降り積もった雪に浅い穴を作っていく。
すっかり冷えきってしまった体の冷たさも、感じない位に夢中になって泣いていた。
声を殺して、ポタポタポタポタと涙を溢した。

ちらりとポケギアを見てみると、もう11時59分01秒だった。

後、50秒……。

後、40秒………。

後、30秒…………。

後、20秒……………。

後、10秒………………。

5……4……3……2、い──

「メリークリスマス、なまえ!」

──ゼロ。

私はギリギリ11時59分59秒に、後ろから抱き締められていた。
それは、今日一日ずっと聞きたかった声。
それは、今日一日ずっと触れたかった体。
それは、今日一日ずっと会いたかった人。

「れ、っど……!」

止まりかけていた涙がまたボロボロと落ちる。
もう私の顔は、寒さと涙でグシャグシャになっていた。
耳まで真っ赤で、目は腫れていて、目もあてられない位に崩れている事だろう。
それでも、私は彼が私を抱いている腕をきつく抱き締めた。

「ご、めんな……。ホントは、もう少し前に着くはずだったんだけど、雪とかでさ」

彼の息は絶え絶えだった。
体も火照っている事を考えると、きっとクリスマスに間に合うように急いできてくれたんだろう。
私はその事実だけで嬉しくて首を横に振った。

「ううん……! レッドが側にいてくれるだけで、それだけで、私には最高のプレゼントだよ!!」
「なまえ……」
「それより、ちゃんと勝ったでしょうね!」
「モチ!」

レッドは、ずっと私が見たかった子供のような笑顔を私に見せてくれる。
私の心は単純な事に、その笑顔だけで一杯になった。

「なまえ」

名前を呼ばれ、私はそちらを向くと、生暖かい柔らかいものが唇に触れる。

「メリークリスマス!」

私の彼は、世界で一番最高のプレゼントをくれるサンタクロースだった。


お帰りなさいサンタクロース

title by Fortune Fate

切甘目指しましたレッド夢。
書き方変えたんですが、読みにくくなかったですか?
やー、後から見直したら恥ずかしくなってよく見直ししてませんよー←
でも結構冒頭とかは気に入ってます。
メリークリスマス!


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