「なまえさん?」

「うん、そう。マサラ出身なんだけど、ルナ知らないか?」


ここはマサラタウンとトキワシティの境、どこにも属さない場所。
緑豊かなこの地には、ちょっと場違いなくらいにバカでっかいお屋敷がどーんとおっ立ててある。
コポコポと慣れた手つきでお茶を入れる、向日葵色の髪の少女の名前はルナ。この家の主、というには可愛らしすぎるが紛れもなく主だ。
そしてその豪奢な部屋で我が物顔でくつろぐ少年は、言わずと知れたマサラタウンのレッド。最初の頃こそ豪邸っぷりに気後れしていたレッドだが、今ではまるで我が家のように過ごすのでルナは時々ここが自分の家だということを忘れそうになる。そしてその度にレッドはルナの大事な妹にシバかれるのだった。

じゃ、なくて。


「リュウくんなら知ってるかな…?どんな人なの?」

「ん?いいヤツだよ、バトル強いし!」

「レッドの中で『いい人』の基準ってバトルなんだよね…」


その基準でいくと、カントーの四天王ワタルなぞとてもいい人になってしまう。


「あー、でもどっちかというとブルー寄りだな。ちゃっかりしてるというか…翻弄されやすいというか…」

「?」


ルナが首を傾げた時、遥か遠くにある玄関の方からガチャ、と音がしたかと思うと元気な足音が聞こえた。外出していた妹のリナが帰ってきたのかと思ったが、足音が数人分聞こえるのは気のせいだろうか。


「こんにちは、レッド!」


語尾にハートマークでも付きそうな、女の子の可愛らしい声。続いてルナの髪とは違う、柔らかな色が駆け抜けた。

まさか…すわレッドにガールフレンドか!?
ハッ、としたルナが振り向いた時にはもう、突然の闖入者はレッドに飛びついてーー


「悪口は言ってません」

「ふーん、へー、そー」

「スイマセン!スイマセン!いだだだだ!!」


アイアンクローをかましていた。


「あ、あれぇ…?」


ある意味まさかの展開にルナもびっくりである。


「ちょっと弱味にするだけだから言ってごらんなさーい」

「黙秘権!黙秘権!!」

「…おい、その辺りで止めにしておけ」

「え、グリーン?」


一気に人が増えたせいでルナにはまったく状況が把握できない。お茶を片手にアタフタする彼女は確かにこの家の主のはずなのだが、残念ながらこの光景を見た者には誰もわからないだろう。


事態が収拾するまで、優に10分は要した。


「それで、この子が噂のルナ!?やっだ可愛いー!!!」

「わっわっ」

「オイ…落ち着け」


ルナの隣に陣取って彼女をてっぺんからつま先まで眺めたあと、可愛い可愛いと連呼してルナの頭を撫でる少女をグリーンがべりっと引っぺがす。


「あ、あのそれでこの方は…」

「ちょっと、何でわたしのこと話してくれてないのよそこの三角頭」

「飛び火した!」

「…ルナ、こいつはなまえ。オレの幼馴染だ」

「え、さっきレッドが言ってた…」

「…ねえねえルナ。アイツわたしのこと何て言ってた?」

「え、ええっと…バトルは強くていいヤツで…でもちょっとブルー寄りでちゃっかりしてるとかしてないとか…」

「ルナーーーー!!!」


ルナは決して空気が読めない子ではない。むしろ周りをよく見ているから気はちゃんと遣える方だ。
でもこのなまえという少女は今なんか逆らいがたいオーラを出していて、なるほどこれがブルー寄りという発言の由縁かと納得してしまう。


「レッド」

「 」

「人語を喋れ」

「バトルがお好みなのよね?だったらカムイと戯れておきなさーい」

「ぜひポケモン同士でお願いします!!!」

「わあ、カイリュー!!」


首をコキコキと鳴らして現れた立派なカイリューに目を輝かせたルナとは対照的に顔を青ざめさせたレッドの悲鳴が響く。それを綺麗に無視してなまえはにこりと微笑むとルナの手を取った。


「それじゃあ改めまして。マサラタウンのなまえよ、よろしくね」

「わっ、私はルナです!よろしくお願いします!」

「やーね、堅いんだから。なまえでいいわよ、敬語もなし」

「あぅ…」


笑顔で頭を撫でられ、意図せずルナの口からは鳴き声的なものが漏れた。誰かに頭を撫でられるとこうなってしまうのだ。


「なにこれ可愛い…!同い年って本気で信じられないけどこれが萌え?これが萌えってヤツねグリーン!?」

「……うるさい女だ」

「ええ!?なまえさん、同い年なんですか!?大人っぽいから年上かと…」

「あらー。褒め言葉として受け取っておくわ。…それと、ルナ?」

「はい?…わひゃっ!?」


いきなり脇腹を突っつかれてルナは奇声をあげた。にんまりと笑みを深くしたなまえはさらに首やらお腹やらを柔く突っつき始める。


「敬語は無し、名前も呼び捨てって言ったでしょー?」

「うっひっ、あひゃっ、あわわっ、ひゃふ、くっ、くすぐった、い、ですぅっ」

「いやーん可愛い」

「…まともに喋れなくなってるぞ。敬語もへったくれもないだろう」

「むぅ」

「はーっ、はーっ…」


息を荒げるルナになまえが眉を下げて「ごめんね?」と覗き込んでくる。なまじ美少女顔なだけに怒ることもできず、ルナは慌ててぶんぶんと首を振った。タチが悪い。


「だっ、大丈夫です!…じゃなくて、大丈夫」

「よくできたわねー。いい子いい子」

「私、犬じゃないよ…」


なんだか小動物扱いされているようで腑に落ちないのだが、撫でられるのは嫌いじゃないので抗いにくい。
ひとしきり撫でられると、ルナはすっくとソファから立ち上がる。


「それじゃあ、皆でお茶にしましょう!」


そう言うと、一拍置いてなまえもグリーンも笑ってくれたのでルナも嬉しくなって、にっこりと向日葵のような笑顔を見せたのだった。




永遠になる人達


(それは新しく優しい出会い)
(きっといつかも君は私の隣に)



「お姉ちゃん、なんか部屋の隅で赤野郎がカイリューにシメられて気絶してるけどあれ誰がやったの?」

「あああレッド!!!」

「あ、やったのわたしー」

「グッジョブ」

「………」


慌ててレッドに駆け寄ったはずがなぜかカイリューと仲良くなっているルナ、所謂サムズアップの後になまえと笑顔で握手するリナ、面白いから写真撮っとくわと楽しそうにカメラを構えるブルーという光景を見たグリーンはすべてのツッコミを放棄したとか。


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