手元にあったグラスをくい、と煽る。喉元を通るアルコールの焼ける感覚に顔を顰めた。樽の香りが喉から鼻に、ツンと抜ける。お店で一番美味しい(らしい)ウイスキーだった。アルコールの味なんて正直わたしには分からないけれど。本当はひとりで飲むつもりじゃ、なかったんだけどな、と心の中で呟いてみる。わたしはひとり。
 辺りを見渡すと、ギルドの連中がわいやわいやと楽しそうにお酒を酌み交わしていた。酒場もそのために作られてるんだからそれもそうか。そんな中、ひとりでお酒を煽るわたしは傍から見たら異様なのかもしれない。それもこれも。


「ユーリのばか……」


 この約束をすっぽかしている張本人に悪態を吐く。もちろん当人はいないから宛てつけにもならない。それが悔しい。
 お昼頃にユーリが「たまにはメシでも一緒に食おうぜ!」なんて言うものだから、わたしもわたしの仕事をさっさと片付けてきたというのに、当人は(おそらく)まだギルドの仕事が片付かないのだろう。かれこれ約束の時間から一時間半は経った気がする。
 健気にまだ待っている自分がアホらしく思えてきた…。憎らしげに罪のないグラスを睨んで氷をかちゃかちゃ鳴らす。琥珀色の液体の中で氷から溶け出した水が陽炎のようにゆらゆらと舞った。それを確認して、なお、グラスを煽る。


「自分から言っといてなんなのよ…」

「おーおー、随分出来上がってんな」


 背後からする聞き慣れた声に振り返ると、ユーリ。だいぶアルコールが回っていて振り返ると、くらいと軽く目眩を覚えた。くらり。視線の先のユーリはというと、見るからに苦笑していた。呆れてるとも言うのかもしれない。
 体ごと振り返って、「誰のせいでしょうねー」とユーリをじろりと睨む。酔っているのか、かおが、あつい。


「俺のせいか?悪ぃ、ギルドの仕事追加で回ってきちまって」

「誰も言い訳聞きたいわけじゃないんですー」

「だから、悪いって。まさかヒサギがそんなんなって待ってるとは……」

「誰も好きでこんなんなってない」


 わかってないでしょう?私がユーリと久々にご飯一緒に食べられるのをどれだけ楽しみにしてたのを。だから仕事だって早めに片付けたのに。それなのにユーリは仕事で来なくて、ひとりでこんなとこに待たされるなんて。こんなのってない。
 そう思って、ユーリを見ると、きょとんとした顔をしていた。それから意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「へえ、そんなこと思ってたのか」

「……あれ?」

「全部喋ってんぞ、酔っ払い」


 そう言ってさらににやりと口角を上げて笑うユーリの顔が余計に悔しい。ああもうわたしのばか。酔っ払い!
 頭がくらくらするのはアルコールに焼けたせいなのかそれとも恥ずかしさのせいなのか、その両方なのか。


「でもま、ヒサギにそう思われてるなら光栄だなぁ」


 それからいつもみたいに笑って「さ、メシにしようぜ」と隣の席にユーリも座った。やっぱりユーリにはかなわないなぁと、思う。






君はシリウス
(焼き焦がされるような感覚)(それはアルコールの味かそれともあるいは、)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -