夕焼け、買い物、帰り道。





ぼくらなら





 寒くないか、という言葉とともに指先からぬくもりが伝わる。絡めた手はおおきくて、ヒサギの手はすっぽりと覆われてしまう。


「温かいね、ユーリの手は」

「……ま、ヒサギの手は冷たすぎだけどな」


 そう言って苦笑するユーリ。ヒサギがふふふ、と笑って彼の顔を見上げると、夕焼けが黒髪に反射して、すごくきれいだった。それは感嘆とともに、思わず声となって洩れる。


「きれいって……お前なぁ……」


 ユーリはそう言うけれど、さらりと靡いた漆黒は、やはりすごくきれいに見える。ふたりで白い吐息を撒きながら歩き出す。
 お互いに無言だったけれど、別に沈黙が不快なものじゃなくて。むしろ別の何かに思えた。


「なぁ、」

「ん、なに?」

「俺ってさぁ」


 すっごく幸せかもな、なんて言ってユーリが笑うものだから少し照れくさくて。ヒサギはマフラーに顔を埋めてもごもごとわけの分からない言葉を紡ぐ。寒かったはずの身体がなんだか、熱い。


「ひょっとしてヒサギ、照れてるだろ?」

「照れてなんか、ないって」


 見透かしたような余裕の笑みを浮かべたユーリがこちらを見つめる。その瞳に吸い込まれそう、なんて不覚にも思う。


(ユーリは、ずるい)


大人ぶって(実際に大人だけど)いつも余裕な素振りで、自分ばかりがなんだか振り回されてるような感じ。


「ずるくなんかないだろ」

「……! なんで分かるの」

「ヒサギの顔って、分かりやすいもんなぁ」


 そう言ってユーリはからからと笑う。一方ヒサギはむぅ、なんて膨れっ面。まあまあ拗ねんなって、と隣でからからとユーリが笑う。拗ねてなんかいませんー、やっぱ拗ねてんじゃねーか、なんて不毛なやり取り。





(ぼくらなら、きっと、)

初出:10/01/30
修正:10/03/04


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テーマ「人外ファンタジー」
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