雪の降る日なんて嫌いなんだよ。
嫌なことを、ぜんぶ思い出すから。
スノークライ 宿屋の一室でゼロスは窓の外を一瞥する。銀空にふわりふわりと白雪が舞っていた。その双眸が景色を捉えると、ゼロスはちっと舌打ちをした。
(……嫌な日だぜ)
あの日もこんな雪の日だった。過去の出来事に囚われるのは馬鹿げているとはゼロス自身思ってはいるが、結局今の今まで吹っ切れたことはなかった。
嗚呼嫌な日だ、と今度は口に出してみる。するとその苛立ちが益々と己の内に溜まっていくのがよく分かった。
「あーあ、らしくねぇ……」
一言だけ呟いてベッドにぼすん、と身を沈める。なんてことはない天井にさえ、もやもやした気持ちがゼロスのなかに募っていく。
今日はずっと眠っていたい、とそう思い、うつらうつらしているときであった。
こん、こん。
扉を叩く音が耳に届いた。
誰だこんなときに来やがって、などとぶつぶつ小言を吐きながらゼロスが扉を開く。
「……ごめんなさい、やっぱり迷惑だった、よね…?」
そこには少し申し訳無さそうな表情をしたステラが立っていた。こんなときに来ちゃってごめんなさい、と再び謝ってステラは後退りをする。
「……待ちなって」
「でも、」
「俺さまに用があったんじゃないの?」
「た、大したことじゃないの。ほんとに…っ」
慌てて帰ろうとするステラの腕をゼロスががしりと掴んだ。強く掴みすぎたのだろう、ステラの表情が少し歪む。
「わりぃ…」
苛々していたとはいえ、自分らしくないことをした、とゼロスは後悔した。慌てて手を離すと、ステラは帰るのをやめたのか、立ち止まっていた。
「……どうしたの?」
「何でもねーよ?」
先ほどの態度に違和感を覚えたのか、ステラが首を傾げる。それに対して穏やかな笑みを浮かべゼロスが返した。
で、何の用だったの、とゼロスがステラに訊き返す。体勢を変えた拍子に真っ赤な髪が、さらりと空に流れた。
「……雪、降ったから」
「え?」
「外で遊びたいって、思ったの」
ゼロスはそっか、と呟き、俯きがちのステラを見つめた。