こわいゆめをみたの





 夢幻から覚醒へと、目を開いた少女は少し震えていた。俯いた彼女は弱々しく自分の服の袖を引いた。


「……どうした?」

「夢を、見たの」


 首を傾げるクラトスにそう告げるステラ。
 服を隔てて伝わる体温があまりに低くてクラトスは驚いた。これ以上冷えてはまずいと思い、彼女を自分のマントで覆ってやる。すると彼女はほっとした様子でクラトスに寄りかかった。身近で感じた体温はやはり低い。


「どんな夢だ?」


 ステラに問うと、マントのなかから籠もった声音が聞こえてくる。


「……すごく、こわい夢」


 ぼそりとした呟き。クラトスがもう一度、どんな夢かと尋ねるとステラはマントのなかから俯いた顔をひょこりと出した。それから彼女は、首のないお化けが襲ってきたのだと言う。抵抗もできなくてただこわくて震えていたのだ、と。
 その話を聞くなり、申し訳ないがクラトスのなかに笑いがこみ上げてきた。我慢できずにフ、と笑いを漏らす。


「わ、笑わないでよ…すごく、こわかったんだから……」


 頬を膨らませて抗議するステラに、クラトスは微笑みかける。それからわしゃわしゃと無造作に頭を撫でた。


「子供扱いしないでよ」

「こわい夢程度で震えてるようじゃ、ステラもまだまだ子供だな」


 そう言ってクラトスが笑う。
 むぅ、と殊更頬を膨らませたステラがクラトスを睨んだ。けれど彼にとって、少女の睨みなどあまり怖くはない。


「……分かった」


 ならばどうしてほしい、と溜め息混じりにクラトスが囁く。余計に子供扱いされているとステラが顔をしかめて、それからふっと頬を緩めた。


「……ここに、いて?」


 弱々しく告げるステラの顔が仄かに朱に染まっていて、クラトスはこの子はまだまだ子供だな、と思った。


「……分かった」


 そう告げて、クラトスはそっとステラの肩を自分に寄せる。弱々しくもたれかかった少女の温い体温に少しばかり心地よさを感じた。





(悪夢のあとのささやかな安らぎを捧ぐ)

10/02/10


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