「私、リフィル先生のことが大好きでした。先生として…それから、その…ひとりの人として」


 呆れられているだろうか、気持ち悪いと思っているだろうか。頭の隅でステラは考えて、少し怖くなる。ちらりとリフィルの顔を覗くと、真剣な表情をしていて、ステラは綺麗だな、そして嗚呼このひとは優しいのだ、と実感する。それがひどく嬉しくて、悲しい。


「だけどそれも今日でおしまいにします。先生にとって、私は大勢の生徒のひとりでしかなかったって…分かったから」


 だからさよならを言いに来ました、と最後まで一気に言葉を紡いでステラは身を翻して走り出した。


「お待ちなさい」


 制止の声がして、ステラはびくりと身を弾ませると動きを止める。それからゆっくりと、恐る恐るリフィルの方へと振り返る。相変わらず真剣な表情。否、これは怒りを現しているのだろうか。怯えた瞳を向けるステラに、リフィルは優しく微笑んだ。


「あなたは私が好きだと言ったわね?」

「……はい」

「それで、どうしていきなり『おしまい』になるのかしら?」

「だって、」

「私はまだ何も言っていません」


 有無を言わせずリフィルがステラの言葉を遮る。ぴしゃりとした言い方に驚いて身を縮ませるステラに気づいてリフィルがごめんなさい、と謝る。


「ステラ…あなたが卒業するということは、私の生徒という立場を去るということよ。…悲しいことにね、でも」


 私とあなたはもう、教師と生徒の枠を越えた関係になるのよ。そう言ったリフィルの言葉にステラは首を傾げる。


「教師と生徒じゃ、ない…?」

「…そう。あなたと私は対等な人としての関係になるの」


 言っていることの意味が分かるかしら。リフィルは微笑を浮かべながらそう訊ねる。それからゆっくり言葉を続ける。


「だから私が教師で、ステラが生徒だから…なんて理由で『おしまい』だなんて言わないでちょうだい」

「でも、せんせ、」

「先生なんて呼ばなくていいわ」


 ステラの言葉はリフィルに遮られる。リフィルはにこりと、少し茶目っ気のある笑顔を浮かべている。


「だって今日からあなたと私は恋人なのでしょう?」


 まだ冷たい春の風がステラの目の前を過ぎって、ひとしずくのあたたかい水がきらりと舞った。





(さようなら先生、こんにちは大好きなひと)

10/03/13


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