ステラは中身をみるなり、アクアマリンの双眸を見開いて、わぁ、と感嘆の声を漏らす。それから、嬉しさと信じられないという感情が混ざり合ったような表情でゼロスを見つめた。
「そ。ステラちゃんのためのリボンよ?」
「どうして……?」
首を傾げるステラに、ゼロスは戦闘時に髪の毛を邪魔そうにしていたように見えたから、と説明してやる。
「どうせ、迷惑かけるからって言い出せなかったんだろ? 装飾品なんて買ってもらうわけにいかないって、さ」
「……う、」
お見通しなのか、と思ったのだろう少女は黙ってゼロスの言葉にこくりと頷いた。
「そんなことより、視界が悪いせいでステラちゃんが万が一大きな怪我でもしちゃったらどうすんのよ?」
「怪我には…慣れてるもん」
腰に手を当てて呆れたように言うゼロスを直視できずに、ステラが俯いて呟いた。
すると、少女の頭にぱふんとした衝撃。
「慣れてるじゃないでしょーが! ステラちゃんが怪我すると俺さまが心配するの!」
「……ごめんなさい、ゼロスくんも回復係だもんね?」
「そーじゃなくて!」
「……?」
ゼロスは、再び首を傾げる少女に大きな溜め息を吐いた。どうして他のことには鋭いのに、こういうときに限ってこんなにも鈍いのか、と思う。
きっと少女は、自分のこの溜め息の意味すら分からないのだろう。
そう思うと少し、否、かなり残念に思う。そんな彼女にささやかな嫌がらせでもしてやろうではないか。未だステラの手の上にあるリボンを手に取り、ゼロス自ら髪に着けてやる。
急な動作で驚いたのか、ステラの体がぴくりと跳ねた。ふわふわとした飴色の髪からのあまいにおいが、ゼロスの鼻腔を擽った。
それから最後の意地悪。
鈍感な彼女の耳元で、ゼロスは低く囁いてみせる。
「俺さまがステラちゃんを心配するのは、 だからなんだぜ?」
それだけ告げるとゼロスはくるりと身を翻して部屋へと戻っていく。
頭にある色鮮やかなブルーのリボンとは対照的に、頬を朱に染めたひとりの少女だけがその場に残された。
(瞳とおなじ、澄んだ青色のそれを君に)10/02/13