ラヴ・エンヴェロープ





「まーだ、あの子が好きなの?」


 私の幼なじみは天使さまに恋をしている。その天使さまの名前はシェリアというらしい。


「う、うるさいぞ、さっきから!」


 いつもは冷静なくせに、と呟いてみる。私はソファの上でみっともなく頬杖をついて、妙に慌てふためいたレイモンをまじまじと見つめて溜め息をひとつ。
 彼はまた彼女にどうアプローチするかでも考えているんだろうな、とぼんやり思う。
 でもだめよ、彼はそういうことができる人じゃないもの。たぶん的外れなことをするに決まってる。想像しただけで笑いがこみ上げてしまうわ。


「プリムラ! お前はさっきから…俺の部屋で何をしてるんだ!」

「観察よ、観察。だってレイモン、面白いんだもの」

「……面白いとは失礼な」


 ごほん、と咳払いをしたレイモンがこちらを睨んでいる。はいはい失礼しました、と宥めてみれば逆効果で、彼はふんと鼻を鳴らすとくるりとそっぽを向いた。


「……で、その天使さまってどんなひとなのよ?」


 レイモンの背中に向かって質問を放り投げる。暫しの沈黙のあってのちに答えが投げ返される。
 あの方はなあ、敵である、しかも危害を加えた俺にも優しく治療をしてくれ、さらに笑顔を振り撒いてくれたんだ、と力の入った声が部屋にわんわんと響いた。
 再びしんとした部屋にくつくつとした笑い声が木霊した。


「なに笑ってるんだお前は」

「いーや、何でもありませんよ」


 こんなにも情熱的な幼なじみの姿が見れるのだから、天使さまにも感謝しなきゃね、と内心思う。


(でも、少しくらい)


 少しくらいこっちにその情熱を向けてくれてもいいじゃないか、と思うのは事実。
 小さい頃からオズウェル家とは親好があったし、特にレイモンとはよく遊んだりもしていた。
 いつの間にか大人になっていた彼の姿に、少しばかりの恋心を抱いてしまったのも、また事実。
 けれど常に隣にいたせいか、レイモンにとって私はただの幼なじみ、そして空気。そう考えてみれば情熱なんか注ぐわけないか、と溜め息が零れた。


「さっきから笑ったり溜め息ついたり落ち着かないやつだなお前は」

「どうせ落ち着きなんてありませんよー」


 いー、と歯を見せると今度は向こうが溜め息。お前も良家なんだからそうはしたない真似はするなよな、とレイモンの呆れ声。
 はいはい、なんておざなりの返事。

 きっとずっとこのままの日が続く。





(この気持ちが届けばいいのに、なんて女々しすぎるけど、)

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