にゃんにゃんしたい日





「ヒューバートっ!」

「何の用…っ、ななな…?」


 プリムラがいつにもまして上機嫌で声をかけてきたので、ヒューバートがそちらを一瞥すると目に入ってきたのは。


「なんですか、その耳は!」


 ぴょっこりと頭から生えている…所謂ネコ耳というものだった。


「ん? ネコ耳、可愛いでしょ」


 自慢気にネコ耳を触りながら、プリムラが笑う。それに対してヒューバートは盛大に溜め息を吐いた。


「えー、気に入らなかった? ひょっとしてうさ耳とかの方が好き?」

「そういう問題じゃありません!」


 呆れ果てたヒューバートを見るなり、うーん、ダメだったかぁ、と唸るプリムラ。
 一体何を考えているのか、否、これは彼女が考えたわけではなく恐らくはあのふたりの考えなのだろう。そう思うと、真に受けて実行したプリムラに、ヒューバートは余計に深い溜め息が漏れる。


「どうせあのふたりがやれと言ったんでしょう?」


 すると返ってきた答えは予想外のもので。


「ちがうよ?」

「……え?」


 ヒューバートは思わず、間抜けな声で聞き返してしまう。なぜなら、普段の彼女はこんなよく分からない行動をとらない人間だから。その答えは聞き間違えだったのかと思い、もう一度尋ねてみる。


「マリクさんとパスカルさんが、あなたにやれと言ったんじゃないんですか?」

「だから、ちがうってば」


 やはり聞き間違いでないことを確かめるとヒューバートは再び深い溜め息を吐く。


「あなたは何がしたいんですか」

「その、…ヒューバート、に……って…から…」


 その質問に僅かに頬を朱に染めてプリムラがぼそぼそと呟く。ヒューバートは彼女の態度に余計に訳が分からないといった顔で首を傾げる。


「聞こえませんね」

「だから、その……」

「はっきり言ったらどうですか」

「ヒューバートに可愛いって言ってもらいたかったから!」

「……は?」


 突如プリムラが大声を出すものだから、ヒューバートは驚いてびくりと跳ねた。それから再び間抜けた声をあげる。
 だから、と先程より頬をより鮮やかな朱色に染めてプリムラが何かを言おうとする。


「……馬鹿ですね」

「どうせ私は馬鹿ですよ」

「そうじゃなくて、」


 拗ねてそっぽを向くプリムラをちらりと視界に入れて、ヒューバートは眼鏡のブリッジに手を添えた。


「そんなことをしなくたって、あなたは十分ですよ」


 消え入るような声でヒューバートが告げる。プリムラには聞こえたのだろうか、と頭の隅で考えると、ヒューバートは少し顔があつくなった気がした。


「え……?」

「何でもありません! さぁ、そのくだらない耳は外しなさい」


 目を見開いて首を傾げるプリムラに、まくし立てるようにヒューバートが言う。
 そんな彼に、プリムラはにこりと笑う。


「はーい」

「……何をニヤニヤしてるんですか、だらしない」

「なんでもありませーん」





(少しくらい、素直になればいいのに)

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