それからだった。彼女は頻繁に遊びに来るようになったのは。
そんな風に過ごすようになってから、数ヶ月のちに確か、何かパーティーのときに親を通じてちゃんとした紹介を受けたのだったと思う。
「レイモン、こちらはプリムラ嬢だ。仲良くしてやりなさい」
「……分かっています」
「はじめまして、レイモン」
「……はじめまして、プリムラ嬢」
茶目っ気に満ちた笑顔を浮かべて恭しく挨拶をするプリムラに、レイモンはひどく驚いたのだった。
あんなに粗雑な(と言っては悪いが強ち間違っていない)少女がちゃんとこんな風に挨拶ができたなんて、と。
それ以来、オズウェル家とプリムラの家は親しく付き合うようになり、レイモンと彼女は公式に幼なじみとして関わるようになったのだった。
* * *
「聞いてるの?」
「ん? あ、ああ……」
プリムラの声に、はっとしてレイモンが曖昧に頷く。
どうして今更、そんなこと。
「で、何だっけ?」
「聞いてないんじゃない」
そう言ってプリムラが頬を膨らませると、レイモンは「悪かったな」とだけ謝った。
「私、結婚するから……その、式にはちゃんと来てよ。招待状も出すから、ね」
「……分かってる。お前の晴れ舞台くらい、幼なじみの俺が見なくてどうするんだ」
「ありが、とう……」
嬉しいはずの、幸せを掴むはずの人間とは思えない、声音。詰まるような、震えたようなそれにレイモンはプリムラを一瞥したが、表情は依然として普段のまま。
(気のせい、か……?)
ただ、少しだけ違う彼女の微笑みに気づくことだけが、どうしてもレイモンにはできなかった。
それは恐らく『当たり前』というフィルター越しに彼女を見ていたからなのかもしれない。
震えたように聞こえた声も、きっと、気のせいだったのだと思えさえするのだから。けれどそれは気のせいであってほしい、という願望のせいだったのだろう。
なぜなら彼女は、本当は笑ってなどいなかったから。
「じゃあ私、失礼するわ。天使さまによろしくね」
「う、うるさい! ……まったく、それくらいのことで連絡なんてしてくるなよ」
「ごめんなさい」
そう言ってプリムラは、ぱたりと閉じた扉の向こうに消えていった。
その音が、声が、妙に寂しいなんて。
(そんなはずは、ない)
なぜなら、彼女は幸せになるのだから。
レイモンはそう言い聞かせていた。
(言い聞かせていることに気づいたならば、或いは、)