ずっと一緒にいる、なんて。
そんなことはいつの間にか磨耗して薄れて、消えていくだなんて、知らなかった。否、気づかなかった、当たり前すぎて。
メルクスト・エス・ドゥ?「私、とうとう嫁に出されることになったわ」
「……良かったじゃないか、貰い手が決まって」
いきなり家にやってきて何を言い出すのかと思えばこの台詞。わざわざ結婚の報告に来るなんて物好きなやつだ。レイモンはそんなことを考えながら、おざなりに返す。
彼女は溜め息混じり、不本意な気持ちと何かを訴えたそうな意思の隠った言い方だったが、あまりにも些細すぎたために、相手に気づかれることはなかった。
「それにしてもプリムラみたいなおてんば娘を嫁にもらうなんて、とんだ物好きだな」
「……どういう意味?」
やや強い口調で問うプリムラに、レイモンは「そのままの意味だが?」とニヤリと笑って応えた。
「私だってちゃんと女の子なんですー!」
「そういうところが物好きに好まれるんだろうな」
「だーかーらー!」
「物好きに飽きられないように、ちゃんとしろよ」
いー、と歯を見せて怒ってみせるとか、地団駄を踏んだりだとか、とても良家で育てられたとは思えない、少女の振る舞い。レイモンは頭に手を添えて溜め息をひとつ。
(……良家、といっても温室で育てられたよりは、甘やかされ放題だったんだろうな)
プリムラを眺めながら、レイモンはそんなことを考える。そういえば、初めて会ったときからそうだった。
* * *
幼少の頃、レイモンが一人で部屋で勉強をしていたときのこと。少年はこつん、こつん、と何かが窓を叩く音がしているのに気がついた。
不思議に思って窓を覗くと、そこには一人の少女。
「ねぇ、入れて」
「誰だお前は?」
「……プリムラ。それより中に入れて」
「どうしてだ?」
プリムラと名乗る少女は、少しだけ息を切らしながら少年に話しかける。ひたすらに「入れて」と繰り返す少女に、レイモンは首を傾げるばかり。
それを分かった少女はにこりと笑みを浮かべて声を潜めた。
「嫌いなお稽古の時間なの。だから私、逃げてきた」
あっけらかんとした調子で答えるプリムラに、溜め息をひとつ。
「……帰れよ」
「いや」
「何で知らない人間のところに……って入るな!」
結局、押しの強い少女を拒否することができずに、レイモンはプリムラを部屋に入れることにしたのだった。