8-1
ゆれる、ゆれる。
まるで消え入りそうなの。
08.黎明にたゆたう 再び遺跡から出ると、そこは確かに先程潜った場所の反対側だった。アスベルが剣を構えて辺りを警戒するが、どうやらこちら側には騎士団はいないようだ。安堵の息を吐くと、構えていた剣を鞘に仕舞った。
「ありがとう、パスカルさん。助かりました」
リチャードが礼を言うと、パスカルは「いやいや〜」と照れた風に頭を掻いた。
「ところでアスベルたちは、グレルサイドに行くんだっけ? あたしも行こっかなー?」
「……何か良からぬことでも考えてるんじゃないだろうな」
ついて行こうかなと言うパスカルに、アスベルが怪訝そうな視線を送ると、彼女は手をわきわきさせながら「くくくく…バレたか……」と不敵な笑みを浮かべた。
「お前…っ?!」
剣を構えて激昂したアスベルに臆することなくパスカルが「あたしの目的は…」と言葉を発し、そして。
「ズバリ! ソフィと仲良くなることだよ〜ん!」
「……」
彼女の破天荒具合に、アスベルたちは言葉を失った。暫しの沈黙が辺りを支配し、それからくすくす、とした笑い。
「……笑うなよ、プリムラ」
「だ、だって……ふふ、パスカル面白いんだもの……」
「……そうだね、彼女は悪い人ではなさそうだ。一緒にいてはどうかな?」
「リチャードまで……」
プリムラに続いて一緒に笑うリチャードに、アスベルは思わず赤面する。それから頭を掻きながら破顔して「……はは」と小さく笑った。
「ソフィのこと、もっと知りたいし触りたいよ〜」
そう言いながら再び手をわきわきさせるパスカルを見ると、ソフィは慌ててアスベルの後ろに隠れた。パスカルは依然とソフィを見つめたまま言葉を続ける。
「あ、悪いけどあんたらには興味ないですよ。アスベルと、え〜っと…?」
「リチャードだよ」
「うん、リチャードね。それからプリムラ、だよね? よろしく〜」
「…あ、うん、こちらこそよろしくね、パスカル」
にこりと笑うパスカルに、プリムラも思わず笑みを零した。ここが、長閑な晴天の下であることもあり、遺跡の中で彼女が考えていたもやもやも、少しばかり頭から消えていった。
それとはお構いなしにパスカルは喋り続ける。
「ねえねえソフィ、アスベルとリチャードとプリムラとあたし、誰が一番すきー?」
「……アスベル」
狙うような視線を送り続けるパスカルを一蹴するようにソフィが応えると、パスカルは「悔しいよ〜! もっとソフィと仲良くなりたいよ〜!」と地団駄を踏んでいた。
「そろそろグレルサイドに向かわないかい?」
「……あ、そうだよね。リチャードは早くデール公の所に行かなくちゃ」
パスカルを道中に加えて、アスベルたちは再びグレルサイドを目指すことにしたのだった。