7-1
出会った彼女は、とても破天荒な人でした。
07.破天荒カプリッチオ 燦々と太陽の光が降り注ぐ街道。その先に見えるのが、王都バロニアとグレルサイドを繋ぐ――ウォールブリッジ。
アスベルたちは、ここを通ってグレルサイドへと向かうつもりでいたのだが、案の定と言うべきか、騎士団員の見張りが厳しく、ウォールブリッジを通って行けそうにはない。
「……この様子じゃ、ウォールブリッジを通っていくのは無理みたいだな」
アスベルが赤茶色の髪をがしがしと掻きながら、溜め息混じりに呟く。リチャードとプリムラも、彼に続くようにして深く息を吐いた。
「そうみたいだね。リチャード、他の道はない?」
「あるにはあるんだけど、」
結局一度バロニアに戻らないとならない道しか有り得ず、遠回りだし、リスクもかなり高いとリチャードは告げる。
何とかして騎士団に見つからずにウォールブリッジを抜けることはできないものか、とアスベルたちが考えているときに、甲高い叫び声が街道に響いた。
「ぎゃああっしゅ!」
「どうした、ソフィ?」
アスベルたちは、声のした方へ駆け寄ると、手を突き出したまま動揺しているソフィの姿を見つける。
「どうしたの?」
プリムラがもう一度訊ねると、ソフィは紫苑色の瞳を向けながら「あの人が、触った」とだけ呟いた。その言葉に首を傾げつつも、アスベルたちがソフィの視線を追ってみると、その先にいたのは――女の人。
二人の位置関係から察するに、その人はソフィに突き飛ばされたのだろう、少し離れた位置で岩にもたれ掛かっていた。
先の方だけ朱に染まった白い髪のその人は、少しばかり幼い顔立ちをしているために、アスベルたちとあまり変わらない年齢のようにも見える。
「だ、大丈夫ですか……?」
「さ、触れた……よね?」
プリムラが駆け寄って声をかけても、女の人は目をぱちくりさせながら両の手を見つめてそう呟くばかり。すると、突然がばりと立ち上がってソフィの方へ駆け出した。
「もう一回! もう一回触らせて〜!」
「……何者だ!」
物凄い勢いで駆け寄ってくる女の人に、アスベルたちは思わず武器を構えた。そんな彼らを、彼女はお構いなしといった様子で見つめると、くしゃりと破顔して声高々に名前を告げた。
「あたし? あたしはパスカル! よろしく〜!」
アスベルたちは、パスカルと名乗る女の人が悪い人ではなさそうだと判断し、大人しく武器を納めた。それからプリムラはゆっくりとパスカルに視線を寄せながら話しかける。
「……で、えっと……パスカルさん?」
「んー、パスカルでいいよ。なにー?」
「あの、パスカルはソフィに触れたとかどうとか言ってたけど…あれ、どういう意味なんですか?」
くだけた調子のパスカルに、少しばかり圧倒されつつプリムラが訊ねる。パスカルは「ああ、あれね」と呟きながら手をぽんっと叩いた。