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04.ラスト・プレリュード「やあ、プリムラ。また会ったね」
王都バロニア、大聖堂前。月明かりだけが頼りの薄暗いこの場所で、青年と少女は二人きり。七年も経つというのに、変わることのない習慣だった。
「久しぶりね、リチャード。…相変わらず?」
「そうだね、変わらない毎日さ。それより、君の方こそ変わりない?」
会う頻度こそ少なくなったものの、リチャードとプリムラのふたりはこうして深夜の邂逅を繰り返していた。それは別段深い意味があるわけではなく、お互い、気紛れに大聖堂に足を向けるだけなのだが、こうして出会ったときは近況を教えあったりしていた。
「うん、変わらないわ」
頷いてプリムラが微笑むと、白銀の髪が月光を受けて淡く光る。彼女の普段通りの笑顔に、それはよかった、とリチャードも笑みを浮かべる。
「あ、でも…」
「何だい?」
何かを思い出したように手を叩いてプリムラが声をあげると、リチャードは首を傾げた。
「明日、実地任務に出たアスベルが帰ってくるわ」
「騎士学校の?」
確認するリチャードにプリムラは肯く。
プリムラは時折、アスベルとも会っていた。彼が騎士学校へ入学した後、街中で二人は偶然会ったのだった。それ以来、よく話すようになり、休みの日には買い物に付き合ったりもしていた。
リチャードは、アスベルが騎士学校に入ったという話を彼女から聞き、またアスベルの近況も時折教えてもらっている。
「…でも、あれから七年が経つのね」
月を眺めながらプリムラは呟いた。それから寂しそうに深緋色の目を細めた。
当たり前だけど、月はずっと同じように光を放っていて、それを見てプリムラは何となく安堵する。そうだね、と呟いてリチャードも月を見る。
傾いた月は黎明の知らせ。お互いに元通りの場所に戻る時間がきたことを知る。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだね…また、」
また会える。プリムラはリチャードにゆるゆると手を振った。視線の先の彼の、変わらない笑顔に安堵しながら。
(変わらない、という変化)
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