13-3
それから少しの間、二人は黙っていた。プリムラは表現する言葉が見つからなくて、ヒューバートは言うべき言葉が見つからなくて。
以前は、余裕があって、お姉さんみたいな存在で、凛としていた、そんな彼女が今、自分の目の前で泣いているのだと思うと、ヒューバートは何を言っていいのかわからなかった。迷う腕をゆっくり、プリムラの背に伸ばし、そして少女を自分の胸元へ寄せた。
「心臓の音を聞くと落ち着くと…昔聞きました」
それから一言、すみません、とだけヒューバートは謝った。
「その…リチャード国王のことで少し燻っているだけかと思ってたので」
「…その通り、だよ」
「プリムラはこのままでいいんですか?」
「…」
「あなたがどうしたいのか、考えるべきだと思いました。少なくとも、部屋に閉じこもっていたそうには僕には見えません」
「……ヒューバートは、優しいね」
「ぼくは、優しくなんか……」
「優しいわ……昔から人のこと考えてる、もちろん今だって」
沈黙するヒューバートに、プリムラは静かに「ありがとう」と告げた。それから少し眉尻を下げて微笑む。
「でも、私、何をしていいか…分からないの……」
「彼に会いに行けばいいんじゃないですか」
「今は…できないわ……」
俯くプリムラに、ヒューバートが少し迷いながら「余計な話だったらすみませんが、」と言葉をかける。
「このまま部屋で燻っていても仕方ありませんし、兄さんたちのところに合流しませんか?」
「どうやって…?」
「実は、ぼくもストラタに行かなければならなくなりました。ですので、一緒に向かうことはできます」
ただし「プリムラにその意志があれば、ですけど」とヒューバートは付け加えた。そう言うと、ヒューバートはすくっと立ち上がった。
「明朝出発します。もし、プリムラも来るようなら降りてきてください。無理強いはするつもりはないので」
それだけ言い残すと、ヒューバートは少女の部屋を後にした。
* * *
「さすがに、無理でしょうかね…」
翌朝になり、支度を整えたヒューバートがぽつりとひとりごちた。それから、小さくため息を吐いて眼鏡のブリッジを指で押し上げる。眼鏡のブリッジを抑えるのは、彼の落ち着かないときの癖である。
しばらく待っていたものの、なかなか少女の姿が現れなかった。
やはり無理でしたか、とため息をついて亀車に乗り込もうとしたとき。
「私も、連れてってほしいの」
「……プリムラ」
「何がしたいとか、何をするべきとか…今の私には、分からなかった。けれど、あの部屋は出るべきだと、思ったから……」
だから一緒に行かせて、と。その深緋色には、昨日には見られなかった光が宿っているように、ヒューバートには見受けられた。ヒューバートは少しだけ微笑んで、「なら、早く乗ってください」とだけ口にした。
(鳥かごの鳥はそれでも羽ばたこうとする)