12-2


(ここが…ラント……)


 プリムラはラントを見たことがなかったが、アスベルから話は聞いていた。バロニアに劣らない、自然が豊かな街だと。その言葉の通りだ、と亀車から垣間見える景色を見ながらプリムラは思った。
 すっかり景色に夢中になっていると不意に、がたんという音がして亀車が止まった。恐らくラントに到着したのだろう。
 するとリチャードは、外の人と二言三言言葉を交わすと、亀車から降りた。


「さ、到着だ。アスベルが心配だからね、早く行こうか」

「う、うん」


 促されるまま、プリムラはリチャードに続いて亀車から降りる。そこで彼女が見たものは――。


「そ、そんな……?」


 プリムラは、驚きのあまりその場で立ち竦んでしまった。なぜならば、目の前ではウィンドルと青い軍服の兵――恐らくストラタの軍が戦いを繰り広げていたからだった。
 彼はラントを攻めると言ったものの、まさかここまで熾烈な戦闘が行われることになるとは、プリムラも思ってはいなかったのだ。
 輝術でなにかが炎上した煙の中、リチャードに腕を引かれてプリムラはラントの街中を進んでいった。


「弟君を説得できたかい?」


 ある大きな屋敷にやってくると、リチャードは徐に口を開いた。かしゃんかしゃん、と剣のぶつかる音を奏でながら、リチャードは庭へと歩を進める。
 どうやら様子を見に来て正解だったみたいだね、と言いながら歩み寄る先にいたのは――アスベルたちだった。


「あ、アスベル……」

「プリムラ…? リチャード、どうしてこんなことを?!」


 リチャードの後方で立ち竦む少女に気づいてアスベルが一瞬怯む。それから、この戦闘の引き金を引いたであろうリチャードに激昂した。
 そんな彼と対照的な態度で、リチャードは微笑して「すでに伝えてあっただろう? ラントを攻めると」と告げる。
 依然として優雅な所作で庭を縦断しながら、彼はさらに続ける。


「それにこれは君のための戦いでもある。故郷を取り返してあげると約束したじゃないか」

「俺はこんなことを頼んではいない!」

「君が頼まなくても、ラント侵攻は実行したよ」


 そう言うと、リチャードは立ち止まってから再び言葉を紡ぐ――あの攻撃的な笑みを浮かべながら。


「僕に逆らう者は容赦しない。思い知らせてやらないとね」


 彼のプラチナブロンドが、風でゆらりと揺れる。それの隙間から覗くのは、緋色の瞳。
 アスベルはそれとは対照的な空色できっ、とリチャードに対峙した。
 とうとう少女が恐れていたことが現実のものとして、彼女の視界に広がっている。
 リチャードも、アスベルも、たいせつな友だちなのに。ふたりはずっと友だちだった、のに。どうして?


(……いや、)

「リチャード……最近のお前は何かというとそればかりだ。……今のお前のやり方は間違ってる!」

「どうやらラントを攻め落とす前に君と話をつける必要があるようだね」

(やめて……)


 そう言うや否や、リチャードとアスベルは武器を構えた。ソフィも紫苑色の双眸をリチャードへ向け、敵意を露わにしていた。


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