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マントを翻して玉座に歩み寄ると、くるりとアスベルたちを振り返って、この国の新たな王となった青年は宣言する。
これは始まりである。そして、今日からウィンドル王国の新しい歴史が始まるのだ、と。
「まずは戴冠式だ。僕が王位に就いたことを、内外に広く知らしめなければ」
彼の声音は、壮麗たるこの王の間に静かに響いた。
11.失われるお話 わあわあ、と沸く民衆の声。王都バロニアは珍しいくらいの賑わいを見せていた。それもそのはず、新たな国王となったリチャードの戴冠式が行われているのだから。
大通りを豪華に装飾された亀車が歩む。その上には、深紅のマントで身を包んだ新しき王――リチャードの姿。
所変わって城内。街中を一頻り回った後、リチャードは王冠を授かっている。
アスベルたちは、その様子を静かに見届けていた。半分は祝う気持ち、もう半分は疑念の気持ちで。
戴冠の詞を述べた後、リチャードはゆっくりと両手を差し出して言う。
「剣と風の導きを」
それに続いて、他の者たちもその詞を反芻した。
* * *
戴冠式に出席した後、アスベルが捕虜の処分について談判しに行ったので、プリムラたちは城の一室で待機していた。
不意に開かれた扉から現れたのはアスベル。彼に気づくと、パスカルは「おかえり〜」と笑いかけ、捕虜の人たちについてを訊ねた。それにアスベルは力無く首を振る。
「リチャードに直接頼んでみれば? って、ちょっと難しいかな……向こうはもう陛下様だしね」
そう言ってパスカルが考え倦ねていると、再び開く扉。次に現れたのは兵士だった。彼は、アスベルに向かって玉座の間に至急来るように、とのリチャードの言葉を伝える。
「わかりました。すぐにお伺いします」
「ああ、それとシスター・プリムラ」
「……?」
「あなたも来てほしいと、陛下が」
それは、少女にとって予想していなかった言葉だった。プリムラは、リチャードが自分を呼ぶ意味を理解しかねたが、今や陛下となった彼の言葉を拒否するわけにもいかず――そうする理由もなかったので、躊躇いながらも「すぐに伺います」と応えた。
それを確認すると、兵士は一礼して部屋を後にした。
「捕虜の扱いに関する話かもしれない。……行ってくる」
「いってらっしゃい、アスベル、プリムラ」
「うん……」
「どうしたの、プリムラ? 具合、悪いの?」
「……そうじゃ、ないけど」
いってらっしゃいとふたりを送るソフィに、プリムラは弱々しく頷いた。それを不思議に思ったソフィが首を傾げて訊ねてくる。
具合が悪いわけではない。ただ、あのリチャードに対する恐怖心や疑念がすこし、プリムラの胸につっかえているのだ。
「プリムラ、行くぞ」
「あ、うん……今行くわ」
アスベルに呼ばれて、プリムラも彼に続いて玉座の間へと歩き出した。