10-4


「……! プリムラ!」

「り、ちゃーど…? わ、わたし…一体……?」

「良かった……プリムラ、無事だったんだね」


 呼ばれる声でプリムラは目を覚ました。目の前には心配そうに、そして安堵したように自分を見つめるリチャード。それから。


「アスベル、シェリア…パスカル……それに、ソフィ?」


 プリムラが、がばり、と身体を起こそうとしたのを、シェリアに制止される。それからシェリアに治癒術をかけてもらう。淡い光が、あたたかい。
 それにしても、リチャードはともかくとして、先ほどまではいなかった四人がここにいるのかが、プリムラには分からなかった。
 まだ混濁する意識を叱咤して、なにがあったのかと訊ねた。
 どうやら遊撃隊としてアスベルたちもこのバロニア城に潜入し、そしてここで倒れているリチャードとプリムラを見つけるに至ったようだ。そしてこれからリチャードと共にアスベルもバロニア城に乗り込むところだったらしい。
 アスベルたちの説明で、プリムラは今までになにがあったのかを思い出す。少女は悲しそうに深緋色の瞳を伏せた。それから震える声で、祈るような姿勢で呟く。


「また、助けられなかった……ごめんなさい、ごめんなさい……」

「……プリムラ」


 アスベルには、謝る言葉を繰り返すプリムラが、とても痛ましく見えた。それはどこか、自分にも通ずるところがあったからかもしれない。


「プリムラ、立てる?」

「……ええ、大丈夫」


 プリムラが落ち着いてから、シェリアが訊ねた。それにこくん、と頷くと静かに立ち上がる。多少の目眩は残っているが、歩けなくはない。
 彼女の顔色を気にしてか、今度はパスカルが訊ねる。


「大丈夫、プリムラ? 戻ろっか?」

「……ありがとう、パスカル。でも、大丈夫だよ」


 大丈夫と言ってプリムラは笑ってみせる。彼女がそう振る舞う以上、アスベルたちも深くは追及することはせず、とりあえず先へ進むことにした。
 少し歩いた後、今度はリチャードの呼吸が乱れる。そんな彼の肩を、プリムラはそっと支えた。顔を覗きこむと、リチャードは何かを呟きながら、苦しそうに呼吸をしていた。
 彼は苦し紛れに掴んでいた己の胸元を一層ぎゅう、と握りしめた。


「ぐ…っ、出て…くるな……っ」

(……?)


 出てくるな、とはどういうことなのだろう? その声は小さく、アスベルたちには届かず、彼のすぐ傍にいたプリムラにしか聞こえなかったようだ。
 現に、アスベルは苦しむリチャードに駆け寄ると、彼の言葉とは裏腹に「まさか…前に言っていた、国王に盛られていた毒が?」と訊ねていた。
 プリムラがリチャードの言葉の真意を考えるよりも早く、リチャードの呼吸が落ち着いてくる。


「そうだ……あの男は、僕にまで毒を盛ってきた……この屈辱、その身をもって知らしめてやる……」


 再びギラリ、と光るリチャードの緋色の目。毒を盛られたのだから怒り、大公を恨む気持ちも分からなくはない。けれど、自分の知るリチャードはこんなことを言っただろうか? なにより、彼から沸き上がる明確な殺意に、プリムラはゾッとした。
 バロニア城内を進んでいき、セルディク大公がいると思われる玉座の間へと近づくにつれて、兵の人数は増えて、そして強くなっていく。現に玉座の間の前に到達する前に、アスベルの騎士学校時代の教師、ヴィクトリアが立ちはだかっていた。
 苦戦の末、それを突破すると、アスベルたちは目的地の目の前に到着できた。
 豪奢な扉に手を添えながら、リチャードがアスベルたちに覚悟を問うた。


「いいかい? 叔父は、毒を盛ってくるという手に似合わず、剣の腕は確かだ……覚悟はできたかい?」


 ゆっくりと頷くアスベルたちを確認すると、リチャードは一気に扉を開いた。


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