10-3
気がつくと部屋にある小窓から朝日が射していて、もう朝を迎えたのだと分かった。
椅子に座ったままという体勢のせいか、なにか考えすぎのせいか、プリムラはあまりゆっくり眠れた気がしなかった。重たい身体を起こすと、すでにリチャードは身仕度を済ませていた。
「おはよう、プリムラ」
にこり、と微笑みながら挨拶をするリチャードにプリムラも挨拶をする。
プリムラは簡単に支度を済ませると、リチャードに本隊の前線に連れていかれた。
「プリムラ、君の力を貸してほしい。これからの戦いには、危険が伴うからね」
「……え?」
思ってもいないリチャードの言葉に、プリムラは驚く。昨日の潜入捜査には、巻き込みたくないと言ってくれた彼とは明らかに矛盾していた。けれど、リチャードの役に立てるのならばそれは少女にとっては嬉しいことであり、違和感を覚えつつもその頼みを受けたのだった。
それからもう一つの違和感、それは。
「アスベルたちはどこ…?」
「……ああ、彼らには遊撃隊をお願いしたよ」
「遊撃隊……?」
つまりは別行動ということ。リチャードとアスベルの間に、決定的な距離ができてしまったということだった。
リチャードに「さあ、行くよ」と促されて、本隊と共に先へ進んでいくプリムラ。
彼女はきょろきょろと辺りを見回してみたが、アスベルたちの姿を見つけることはとうとうできなかった。
* * *
薄暗い場所――ここは、バロニア城の地下である。暫く進軍してこの場所にやって来たのだが――。
「……おかしい」
顎に手を添えながら、不意に呟くリチャード。どうして?と首を傾げるプリムラに、リチャードは「兵がいないなんておかしいんだ」と答えた。眉を顰めて考えている、そのときだった。
「ぐわあっ!」
「ぎゃああっ!」
絶叫と、何かが落ちる音。それから複数の足音。
それから推測されることなど、ひとつしかなかった。プリムラは背筋が凍った。それから最悪とも言える答えを口にする。
「待ち伏せ……?」
「……みたいだね」
リチャードは苦虫を噛んだような表情をした。そんなやり取りの間にも、兵と思われる断末魔がこちらまで届いてくる。
断末魔だけなら、恐怖を掻き立てる程度で済んだかもしれないが、ふたりのもとに届くのは、それだけではなかった。
「や……あっ、」
ひどい臭いに思わずプリムラは呻き声を洩らした。金属臭いこれは――。プリムラには暗闇の先の惨劇が無意識のうちに想像できてしまった。
リチャードが自分を傷つけた兵を刺し続けていた記憶が、フラッシュバックする。
「……やだぁっ、やめて…っ」
「プリムラ、しっかりするんだ!」
リチャードに支えられるも、プリムラの身体に力は入らなかった。頭ががんがんするのが分かる。
どうしようもなく怖くて、でもなにもできなくて。
(これじゃ、あの時と同じじゃない……私には、なにもできない……)
そこでプリムラの意識は暗転した。