7-2
「まさか本物に会えるとは思ってなくてさー…つい、はしゃいじゃった!」
「……本物に、会える?」
とても感動した様子で話すパスカルに、アスベルたちは首を傾げた。
「じゃあパスカルは、ソフィのことを知ってるの?」
プリムラの質問に、パスカルは「うーん…説明しにくいなぁ…」と腕を組みながら呟く。それから閃いた! とでも言うように目を見開いて声を上げた。
「たぶん実際に見てみた方が分かると思うよ! すぐそこだし!」
「すぐ、そこ?」
怪訝そうに僅かに眉を潜めてリチャードが呟く。すぐそこに見えるものなどウォールブリッジとその下方に存在する運河だけ。他に自分の預かり知らない何かがあるのだろうか。リチャードは、そんな気持ちを孕んだ視線をパスカルに向けた。
促されるまま、アスベルたちはパスカルの後に続く。
けれど向かった先は、ウォールブリッジでも運河でもない――或る装置のようなものだった。
「なんだ…これは?」
「アンマルチア族の遺跡みたいだよ。でね、この遺跡って、ウォールブリッジの下にあるみたいなんだよねー。結果的に向こう側からこっち側まで出てこれちゃったし!」
見たこともない装置に、アスベルが首を捻る。そんな彼にパスカルが説明を与えると、リチャードは何か閃いたように装置を見つめた。
「パスカルさん、今の話は本当ですか?」
「ん? そうだよ、だってあたし、反対側から抜けてきたんだもん」
けろりとした調子で言ってのけるパスカルに、期待を抱きながらリチャードはさらに質問をする。
「ウォールブリッジに出ることなく?」
「…うん。まぁ途中でウォールブリッジに繋がる出入り口もあるみたいだけど、出なくても行き来できるよ」
プリムラは今一度、パスカルが言った言葉を頭の中で反芻した。向こう側とこちら側は遺跡を通じて繋がっている、と。
「リチャード…よかったね」
「……ああ。これで何とかグレルサイドに向かえそうだよ」
にこりと深緋色を細めながらプリムラが笑うと、リチャードも安堵したように微笑む。
その笑顔の優しさは、先ほどバロニアを抜けるときに垣間見た、あの暴虐な笑みをかき消すには十分だった。
忘れて、しまう。けれど少女にとっては寧ろそれで良いのかもしれない。
「反対側まで行くの?」
訊ねるパスカルに、アスベルたちはこくりと頷く。それから道案内をしてもらえないかとアスベルが願い出る。彼女は快くその申し出に頷いた。
「じゃあ、いっくよー!」
溌剌とした声とともに、プリムラは視界が揺らいだように感じた。