5-2
そこには先程話題に上がっていた友人、アスベルの姿。赤茶色の髪、空色の瞳、白い服。シェリアは声の主をまじまじと見つめた。
「アス、ベル……?」
首を傾げて訊ねてこちらに視線を寄越すシェリアに、プリムラは小さく肯く。
見慣れない女の子だ、とシェリアを見つめてアスベルは思う。けれど自分は彼女を知っている。妙な確信をもって、アスベルは記憶を遡って思い出す。そう、忘れられるわけがない、彼女は。
「シェリア? シェリア、なのか…?」
「……ええ」
アスベルを見つめながらシェリアが頷く。急な再会に、アスベルは言葉を失っている様子だった。
「いや…久しぶり……来るなら連絡をくれれば出迎えたのに、」
「手紙を見ていないの?」
慌てて飛び出してくるアスベルの言葉を遮ってシェリアが訊ねる。なぜそんなことを訊くのかと疑問に思いながら、アスベルは「手紙?」と聞き返した。
「…すまない。任務でしばらく学校を留守にしていたんだ」
「そう、なの……」
アスベルが頭を掻きながら申し訳なさそうに謝ると、シェリアは俯いて地面に目を向けた。アスベルと同行していた男性も、怪訝な表情を浮かべてふたりを見つめている。
「あ、アスベル…シェリアね、アスベルに急ぎの用事があるみたいなの」
「急ぎ?」
「ね、シェリア?」
沈黙に耐えかねてプリムラが会話に加わる。少しでも場の空気が変われば、と思っての行動だったが、それも徒労に終わった。
シェリアは少し間をおいて、きっ、とアスベルを見上げた。
「アストン様が…お亡くなりに……」
「…親父が?」
(アスベルのお父様が……)
その言葉に呆然と立ち尽くすアスベル。次の瞬間、アスベルはがしりとシェリアの肩を掴むとゆさゆさと揺らす。
どうして、なんでだよ、と動揺を隠せずにシェリアに当たるアスベルを見かねて男性が仲裁に入った。
「落ち着くんだ、アスベル」
「…教官、」
シェリアからアスベルを引き離すと、男性――教官は青年を宥める。尚も動揺した瞳で、青年は教官を見つめる。
「シェリアさん、といったか…中で詳しく話を聞こう」
教官がそう言うと、シェリアは小さく頷いて、促されるまま騎士学校の中へと入っていった。アスベルも教官に支えられて、痛ましげな様子で奥へと消えていった。
(なんて、こと……)
ラント領といえば、しばらく以前からフェンデルとの国境紛争が起きている、とプリムラは聞いている。その最中の訃報である。きっと紛争が激化しているのだろう。
暫くプリムラが騎士学校の前で考え込んでいると、話を終えたのだろう、アスベルとシェリアが学校の中から現れた。