5-1
あれから七年が経つ。
05.日常が壊れた日 プリムラはカレンダーを一瞥して日付を確認すると、紺青の修道着に身を包み、部屋を後にする。
(……今日、帰ってくる)
彼女の友人であるアスベルは今日、騎士学校の実地任務から帰還する。せっかくなので出迎えて彼を驚かせようという、彼女なりのサプライズのつもりである。
街はいつも通りの賑わいで、空はいつか見たように青く、高い。
「ひょっとしてあなた…プリムラ?」
背後から微かに聞き覚えのある声が聞こえてプリムラは振り返る。大人しいが、少し甲高い声。そして桃色の髪。彼女は確か、と記憶を辿っていくと、プリムラの頭にひとつの答えが閃いた。
「もしかして、シェリア?」
首を傾げながらプリムラが訊ねると、少女はこくりと肯いた。
「久しぶり……すごく大人っぽくなって、すぐには判らなかった」
「そう? プリムラは、相変わらずみたいね」
にこりと微笑むプリムラだったが、シェリアの表情があまり嬉しそうではないことに気づくいて首を傾げる。
「なにか、あったの?」
「えぇ、まぁ…」
曖昧に頷くシェリアの表情はやはり浮かないもの。久しぶりに会ったからか、やはり七年前のシェリアとは違う気がする、とプリムラは思う。
「ところで、アスベルを知らないかしら?」
やや沈黙があって、シェリアが話題を変える。彼女の表情から、少しばかりの焦燥感が窺えた。
「もうすぐ帰ってくると思う」
「……もうすぐ?」
怪訝な表情を浮かべるシェリアに、アスベルが騎士学校の任務で暫くバロニアから離れていて、今日帰還することを伝えると、小さく何かを呟いた。
「私、騎士学校の前でアスベルを待とうと思うの…だから」
シェリアも行かないか、とプリムラが誘うとシェリアは曖昧に肯いた。
道中プリムラはシェリアと会話をしようと思うのだが、七年という空白は想像以上に大きく、何を話していいのかすら分からなかった。加えてシェリアの表情が曇っているために、沈黙が余計に痛い。
形容し難い居たたまれなさに、プリムラは空の青さ少しばかり心憎く思えた。騎士学校門前の石像を眺めると、それは遠い空を見つめている。
「……あれ? プリムラじゃないか」
聞き慣れた声に、プリムラはゆっくりと振り返った。