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 気づくとプリムラは見知った場所で横たわっていた。ここは、孤児院の一室。


「あれ、私…?」


 一体どうしたんだろう、とプリムラが身を起こそうとすると身体に鈍い痛みが走った。


「ああ、だめよ、プリムラちゃん」

「シスター…わたし、どうしたの…?」


 少女には親はいない。親代わりに育ててくれているシスターに、プリムラは訊ねた。


「あなたってば、大聖堂で倒れていたらしいのよ…もうびっくりしたわ。大人しいプリムラちゃんが夜中に抜け出していたなんて」


 そう言って笑うシスターを見つめてプリムラは記憶を辿る。大聖堂。自分が何をしていたのか、何が起きたのか。――そうだ、あそこで。思い出してがばりと起きあがると、鈍い痛みにプリムラは再び顔をしかめた。


「シスター、私の他に子供がいたでしょう? 女の子が二人と男の子が三人! みんな…どうなったの?」

「混乱しているのね、プリムラちゃん。でも他には女の子は一人、男の子は二人だったわよ」


 確か、ラント家の御子息が二人とその家の執事のお孫さんだったかしら、とシスターは教えてくれた。しかし。


(リチャードと、ソフィは…?)


 さすがにリチャードについて訊いてはいけないような気がしたので、プリムラはソフィについて訊ねてみたが、そんな女の子はいなかったと一蹴されてしまう。


(どういうこと…?)


 窓の外の街並みを見つめながら、プリムラは首を傾げた。青空は高いところにあって手も届きそうにない。それが、妙に悔しく思えた。





     * * *





 数日後、体中にあった痛みもなくなったので、プリムラは街へと出てみることにした。
街を歩いていると、見知った人が視界を横切った。――アスベルだ。
 プリムラは、何があったのか知らないかと訊ねようと手を伸ばしたが、それは手前で躊躇われた。
 アスベルはきっと騎士学校を見上げると、意を決したように門を叩いた。その表情を見て、プリムラは引き返す。今、自分が話しかけたら彼の邪魔になるだろう、と思ったからだ。何があったかなんて、訊けるはずもなかった。
 プリムラは、騎士学校に入っていく少年の姿を黙って見送った。





(それは、終わりではなくて、)


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