3-3


 再び暫く歩いた後に、広がった場所に辿り着いた。アスベルがきょろきょろと辺りを見渡していると、何か見つけたのか慌てて走り出した。


「リチャード!」


 奥まったところにある、石造りの玉座のようなところに少年がうつ伏せに倒れているのが確かに見える。駆け寄ったアスベルは、リチャードの肩に手を添えてゆさゆさと体を揺らす。しかし、意識はないようだった。


「…アスベル、帰ろう…嫌な感じがする」


 洞窟内をゆっくりと見渡して、ソフィが呟く。けれどアスベルは「リチャードをほっとけるかよ!」と彼の近くにしゃがみこんだ。


「帰ろう、兄さん」

「アスベル、戻りましょ?」


 アスベルはヒューバートとシェリアの言葉にも聞く耳持たず、という感じでリチャードの許から離れようとしない。


「…なにか、くる」


 何か嫌な気配がしてプリムラが見上げると、闇よりも深い黒、という表現がまさにしっくりとくる魔物が視界に入った。


「危ないっ!」


 ソフィの声で恐怖から我に返って、プリムラはその場から避ける。けれどヒューバートとシェリアはかわしきれずに、魔物の攻撃を直接受けてしまう。
 跳ね上がった体は石壁に叩きつけられてふたりは地面に倒れ伏した。


「ヒューバート! シェリア!」


 それを見たアスベルは驚きとともに怒りが湧き上がり、武器をとって魔物へと走り出した。


「アスベル! だめっ!」


 ソフィの制止の声も無視してアスベルは魔物に突っ込む。魔物には少年の攻撃はほとんど効いていないようで、何事もなかったように腕を振るうと、アスベルは弾き飛ばされてしまう。


(なにか、しなきゃ…)


 立ち竦みながらプリムラは思うのだけれど足が動かない。そもそも自分には闘う強さすらない。どうしていいのかも、分からない。ただ、がむしゃらに闘うアスベルとソフィを見つめているだけ。


(…なにも、できない)


 アスベルが倒れる。何度も弾き飛ばされ地面に叩きつけられたのだから、もう限界なのだろう。起き上がろうとしても、もう立てないようだった。
 無力だ、自分が。何もできない自分が口惜しいのに、悔しくてしょうがないのにどうすることもできないなんて。


「プリムラ、危ない!」

「…っ、きゃあぁっ!」


 素早い攻撃に、今度は避けきれずに直撃をくらう。意識しなくても悲鳴が洩れ、体中に痛みが走る。


「…許さない!」


 ソフィが魔物に立ち向かい、闘っている。連撃を繰り出すが、効いているかは定かではない。


「みんな、守る…!」


 ソフィの体がきらきらと光っている。輝かせながら再び魔物へと駆けだしていく彼女の背中を見つめながら、プリムラの意識は闇に落ちた。


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