3-2
大聖堂の天井は高く、微かな月明かり以外に光源はないため、中はとても暗く思えた。
祭壇の近くにたどり着くと、水の流れる音がする。
「なんだこれ?」
アスベルは流れる水を不思議そうに見つめた。きらきらと月光を反射したそれは、宝石のようにも思えるほど美しい。
「免罪の水っていうの」
そう言ってプリムラは、傍にある石碑に書かれた文章を読んで説明する。ふんふん、と頷くアスベルに、シェリアが「意味…分かってるの?」と訊ねると笑いながら分からない、と答えが返ってくる。
そんな彼に、みんなは大きな溜め息を吐いた。
「あのね、兄さん。生きている間にした悪いことを、許してあげますよって意味だよ」
「さっすがヒューバート!」
「もう…いつでも教えてあげられるわけじゃないんだからね?」
丁寧に説明するヒューバートに感嘆するアスベル。けれどヒューバートは嬉しそう、というよりは悲しそうといった表情を浮かべていたことに、プリムラは違和感を覚えた。これは、月明かりのせいなのだろうか、それとも。そこまで思考したところで、アスベルの声によってそれは遮られた。
「ここから行けるみたいだ! 行ってみよう!」
「…本当に行くの?」
「もちろん!」
やめた方がいいよ、と宥めるシェリアとヒューバートを余所に、アスベルはずいずいと奥へと進んでしまう。ソフィが追いかけて行き、シェリアとヒューバートが諦めて着いていく、という形でみんなは先に進む。
階段を下るとそこは洞窟で、微かな明かりすらない、暗黒。時折ぴちょん、ぴちょん、と水の滴る音がして、そのたびにシェリアは驚いてアスベルに飛びついていた。
暫く歩くと石の扉が目についた。アスベルは扉に手を当て、唸りながら開こうとする。
「うー! 開かない…」
「…扉の間に砂が詰まって固まってるみたい」
プリムラが扉に触れながらそう言うと、アスベルは癇癪を起こして地団駄を踏む。
「くっそー! 絶対いつか開けてやる!」
息巻いて扉に蹴りを入れるアスベルに、ヒューバートは呆れながら笑っていた。
「とりあえず奥に行くか」
そう言って、アスベルは諦めて扉を後にする。何度か魔物に出会ったものの、大した怪我もなく奥へと進んでいく。
「それにしてもソフィ…強いのね」
不意にプリムラが呟く。ソフィの身のこなしは、明らかに常人のそれを越えており、とても同い年くらいの少女には思えなかった。
「…わたしがアスベルを守るから」
「わっ! そのことは言うなよ!」
「どうして?」
「かっこ悪いからだ!」
しれっと言うソフィに慌ててアスベルが遮る。女の子に守られるなんて恥ずかしいじゃないか、とぶつぶつ呟いているが、恐らく、ソフィには届いていないのだろう。彼女は首を傾げながら「先へ行こう?」とアスベルの服を引いた。