12-1


「ずっとこのままが良いってこと」


 そう言って笑った赤毛の青年の笑顔が、少しだけ寂しそうに見えたのは、飴色の少女の気のせいだったのだろうか。
 その答えは、今はもう――分からない。





12.ネバーエンドワールド





「待たせて、ごめんなさい」


 戻ってくるなりステラは申し訳なさそうにそう告げた。弱々しく笑う彼女の目が僅かに赤いことから、先程まで泣いていたのだとロイドたちは察した。


「大丈夫だよ」

「…ありがと、しいな」


 何があったか、彼女の気持ちを何となく察して、しいなが宥める。その心遣いが嬉しくて、ステラはいつものようににこりと微笑んだ。


「これで大丈夫だな」

「準備はできたか?」


 今までの経緯を遠巻きに見ていたボータが、ロイドたちが準備を終えたことを見取ると、確認のためにそう尋ねた。ロイドはそれにこくりと頷く。それを確認すると、ボータは「では、ついてくるがいい」と背を向けて歩き出した。
 ロイドたちはボータのあとに続いていった。





     * * *





 しばらく歩いたのち、たどり着いたのは絶海牧場を眼前に臨む開けた土地。そこまでやって来ると、ボータはくるりとロイドたちに向き直った。


「我々はここの魔導炉に用がある。ここをまっすぐ進めば牧場に繋がっているはずだ」

「わかった」


 頷くロイドを確認すると、ボータは再び背を向けて歩き始める。少しだけ歩を進めた後、ボータは思い出したように立ち止まり振り返り「そうだ。一つ言い忘れていた」とロイドたちを見遣った。


「お前たち、行く先々で牧場を破壊してまわっているようだが、魔導炉は大いなる実りの発芽に欠かせないのだ。ここは破壊するなよ――それから、」


 一度言葉を区切り、ボータは飴色の少女へと視線を移す。それから「ステラさん、だったか」と少女に呼びかけた。ステラは名前を呼ばれて少し驚き、反射的に「はい!」と返事をした。


「あなたには、記憶がなくてもそばにいてくれる人がいるということを、忘れないようにした方がいい。今を大切にすべきだ」

「……あ、ありがとう、ございます」


 それだけ告げると、ボータは部下を連れて魔導炉のある方へと姿を消してしまった。少女は唐突のできごとに僅かに頭がついていかなかったが、ひとつだけ思うことがあった。


(励まされた、の…?)


 首を傾げながら、ステラはボータが姿を消した先を見つめていた。ぼんやりしていると、ロイドが作戦会議を始めたのでステラははっとしてみんなに向き直る。それを少しつまらなさそうに見ていたのが赤毛の青年だったが、少女はそれに気づくことはなかった。


「俺の予想だと管制室はいちばん奥! ここだと最上階だな!」


 元気よく言うロイドに、コレットが感嘆の声を上げるが、ジーニアスから言わせると何度もこういった施設に侵入しているから当たり前とのことだった。


「よし。んじゃまー、管制室とやらを探すか……なーステラちゃん!」

「わ、」


 後ろからがばりと抱きつかれて、ステラはびっくりする。ばくばくと鳴る心臓に、少女は目が回りそうだった。以前もこういったことがあったが、そのときはこんな感じじゃなかったのに、とステラは心の中で呟いた。
 徐々に訳のわからなくなる自分の心が、少しばかり、不安だった。


「もーなにやってんだい! ステラがびっくりしてるじゃないか、アホ神子!」

「おーい、行くぞ!」


 すでに絶海牧場へと歩き始めているロイドの声に三人は慌てて走り出した。


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