0-1
00.プロローグ 真っ白な世界のなかで、遠くから声が聞こえた。
(誰……?)
どこか、ずっとずっと昔の記憶のなかにいるような、感覚。ここは、どこ?
「君も…なんだね」
懐かしくて、優しい声。それだけで自分の心が温まったような気がする。
(このひと、知ってる…)
けれど名前が思い出せない。それだけではなくて、顔も存在も、声以外の何もかもが思い出せない。
「そうだ、君の名前は… 、なんてどうかな?」
体の芯から感情がこみ上げてくる。この感情の名は、喜び。
嬉しい、と言葉にしたいのに、どうしてなのだろう、声が出ない。ありがとう、嬉しい、と言いたいのに。
「いいね? … だよ」
声がもっと遠ざかっていく。遠退くそれの方に手を伸ばす。けれど、その手は届くことがなくて、虚しく空を掻くばかり。
嫌だ、置いていかないで。ひとりにしないでと言葉にしたいのに、やはり声が出てこない。
またね、という響きとともに声はさらに遠くへ離れていく。
待って、待って、置いていかないで…!
再び伸ばした手も、一縷の希望とともに虚空へ消えていく。
「お願い、待って…!」
叫びとともに身を起こすと、そこは全く知らない部屋のなかだった。
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