2-1


(私を、呼ぶ声?)


 夢の中でふわふわと曖昧に聞こえる、自分の名前。あなたは一体誰なの、と言葉にしても、やはり音にはならない。
 僅かに鮮明になる、記憶。





02.ロストシープ





「……ステラ!」


 耳元でぐわん、と響く声。ステラはぼやけたままの眼で声の主を見つめた。


「……おはよ、しいな」


 まだ夢見心地で覚醒までは程遠い様子で、へらっ、と間抜けた笑みを浮かべて挨拶をする。
 同室のしいなは、はぁ、と呆れ果てたように頭を掻いて少女を見つめた。


「まぁ、色々あったしね」


 疲れてたのも分かるけど、としいなは小声で呟いて身仕度を整え始めた。それから、そろそろみんなも起きる頃だからね、ステラもちゃっちゃと準備しなよ、と少女を一喝する。


(そうだ……)


 未だにぼやける意識のなかで昨日の出来事を思い出す。
 オゼットへ向かう途中のガオラキアの森で教皇の追っ手が先回りしてたから、急遽ミズホの村に来たんだっけ…。
 森に入る前にある程度は説明してもらったけれど、実感のないままここまで来て。
 翌朝になって、やっとその実感が湧いた気がした。
 昨日までは白紙も同然だった記憶が、たった一日でとてもたくさんの出来事で埋め尽くされたようなものだもの。疲れるのも無理ないかな、とステラは内心でひとりごちた。


「さ、仕度はできたかい?」

「……うん」

「じゃあ行くよ」

「はーい」

(しいなって、お姉ちゃんみたい)


 もし自分に姉がいるなら、しいなみたいなひとがいいな、なんて思ってステラの顔に笑み浮かぶ。
 どうしたのさ、ニヤニヤして、というしいなの声に、ステラは何でもない、と飴色の髪を揺らした。
 外へ出るとすでにみんなは仕度を終えて待っていた。こちらに向かってロイドが手を振っている。


「おっせーぞ、しいな!」

「悪かったね」

「ごめんなさい、寝坊しちゃって」


 申し訳なさそうな表情でステラが謝ると、まぁステラちゃんは色々あったしな、とゼロスがフォローする。
 まったくあんたって女の子には甘いね、としいなが皮肉ると、そうよ俺さま女の子には優しいの、とゼロスがでひゃひゃと笑った。


「じゃ、目指すはオゼットだな!」


 明るく笑うロイドを先頭に、みんなでオゼットへと歩き出した。


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