12-5


「…――スターダストカーマインっ!」


 ごうっ!


「なんだ、これは…!」


 驚きのあまりに声を失うリーガル。けたたましい音とともに打ち上げられる弾丸。その大きさもさることながら、感じられるエネルギーも異様だった。真っ赤なマナの塊とも言えるそれの一つがボータのいる管制室のガラスに激突する。それはいとも簡単にガラスを割ってのけた。それほどの、威力だった。
 がしゃんと割れる音とともに吐き出される水、そしてボータとその部下。リフィルはすぐさま彼らに駆け寄ると生きていることを確認した。


「大丈夫よ、生きているわ」

「よか、 た…」

「ステラちゃん?!」


 それだけ確認すると、ステラはへらりといつものように笑って見せ、その場で倒れ込んでしまった。ゼロスが少女を受け止めると、その身体はひどく冷え切っていた。
 少女の技で少しばかり飛竜は片付いたものの、まだその数は減るところをしらなかった。加えてガラスを割ったせいで水も溢れかえっていた。


「…ミトスっ!」


 ジーニアスは送り出す時にミトスから預かった笛と彼の言葉を思い出した。急いで笛を取り出すとそれを吹いた。優しいメロディーが響き渡る。
 それと同時に地面が揺れ、中空から凄まじい攻撃が降り注いだ。光の軌跡は飛竜をドームの天井を破り、飛竜を昏倒させた。


「なんだ?!」

「今のは…精霊?」


 驚き空を見上げるジーニアス。頭上から聞き覚えのある声が響いた。


「ジーニアス、リフィルさん、みんな!」

「ミトスの声だ!」


 ジーニアスは嬉しそうに声をあげる。ロイドは不思議そうに「どうしてミトスがここに…?」と首を傾げる。レアバードで脱出するよう促され、ロイドたちはレアバードにまたがった。





     * * *





「やっぱりミトス! どうして?! さっきの攻撃は?」


 ジーニアスはミトスに合流すると開口一番にそう言った。それからどうしてレアバードに乗っているのかを尋ねた。ミトスは申し訳なさそうに眉尻を下げて「ごめんなさい」と謝った。


「ボク、やっぱり心配でみんなのあとをつけていたんだよ。それで、レネゲードって人たちにお願いして、レアバードを貸してもらったんだ」

「でも、あのすごい攻撃は…?」


 コレットの質問にはミトスは「あれは…ボクにも分からないよ」と首を振った。ミトスはただ、笛の音が聞こえたから中に入ろうとファイアボールを投げつけていただけなんだそう。そうしたら、金色に光る鳥が助けてくれたのだと付け加えた。
 それにしいなははっとする。


「金色に輝く鳥? まさかアスカ?」

「まさか…精霊がどうして?」

「どういうことなんでしょうか」

「まさかと思うけど、ジーニアスが吹いた笛がアスカを呼んだとか?」

「ミトスの笛が?」


 首を傾げるジーニアスに「どうかしら」とリフィルは異を唱えた。その笛自体を調べてみないと詳しいことは分からない、とリフィルは補足する。


「それよりさぁ」


 口を開いたのはゼロスだった。背中にはあれから意識を取り戻さない少女をおぶっている。相変わらず身体が冷え切っているのでゼロスは心配だった。


「どこかで休まねぇ? ステラちゃん、休ませてあげたいんだけど…」


 それからボータたちもだった。彼らも意識は戻ったとは言え、一度大量の水を飲み込み溺れていたことを考えると、一刻も早く休んだほうが良いとゼロスは判断したのだった。


「我々は、レネゲードの基地に戻らせてもらう」


 ボータたちはレネゲードの基地に戻り、ユアンに報告をしたいのだと言う。ゼロスは手をひらひらとさせると「あーっそ、どうぞ〜」と言った。方向転換をして離れていく間際にボータが振り返ってゼロスに向かって言った。


「…彼女が目覚めたら、ありがとうと伝えてくれ」

「やなこった」

「ぬぅ…!」

「せっかく生きてるんだから、自分で伝えたらいーんじゃねぇの」


 ゼロスのその言葉に、ボータは僅かに笑みをこぼして「それもそうだな」とだけ言うと、そのまま基地へと向かっていった。ロイドたちは何処へ行くか考えあぐねていると、ミトスが思い出したように言った。


「ボク、ニールさんに黙って出てきてしまったから謝らないと…」

「そしたらパルマコスタだな」


 笑いかけるロイドにミトスが頷く。ロイドたちは、パルマコスタへと針路をとった。


「ああもう、なんだってんだ…」


 赤毛の青年は誰も聞こえない声で独り言ちた。





(誰かがいなくなったら私の世界は壊れる、と少女は言った。)


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