12-3


 そこに写っていたのは、先ほどロイドたちが開放した牧場に捕らえられていた人たち。逃げ出そうと、通路を歩いている。そこでロディルが、「これからちょっとした水中ショーを見せよう」と笑った。
 最初はよく見えなかったが、よくよく見てみると下の方から水がせり上がってきている。それに気づいた人たちは恐れおののき、身動きがとれなくなってしまっていた。


「ひ、ひどい…!」

「みんなが…殺されちゃう!」


 悲鳴をあげるジーニアスとコレット。リーガルは苦虫を噛んだような表情で「…ゲスが!」と短く吐き捨てた。見ていられなくなったロイドがロディルの元へと走り出す。


「でめぇ! やめろ! 今すぐ海水を止めるんだ!」


 ロイドの激昂にもロディルは全く動じることはなく、ゆっくりと「無駄だ」とだけ告げた。それが頭にきたロイドは剣をロディルに閃かせた。しかし、ロディルはすっと身を翻し、彼の剣技をかわす。それから、「お前たちがここに乗り込んできた訳は分かっていますよ。おおかた、我が魔導砲を無力化しようというのでしょう」と余裕の笑みさえ浮かべ、さらに口角を上げてこう続けた。


「残念でしたねぇ。魔導砲へ続く通路は海水で満たしてあげましたよ!」

「そんなことのために牧場の人たちを見殺しにしたの! 許せない…」

「劣悪種の命など知るか!」


 コレットの非難の声にロディルがぴしゃりと激昂する。ロディルはことさら憎むような目でコレットを睨むと「魔導砲はクルシスの輝石があれば完成する。あのトールハンマーさえあれば、ユグドラシルもクルシスも恐るるにたらんわい」と続けた。


「あの目障りな救いの塔も魔導砲で崩れ落ちるだろう」

「救いの塔を破壊していったい何になるんだ?!」


 ロディルの一言に疑問を投げたのはロイド。ディザイアンとはいえ、クルシスの下部組織に当たるはずであるが、なぜロディルは救いの塔を破壊すること、クルシスに敵対しようとしているのかは当然リフィルを始め、みんなが疑問だったろう。
 しかし、その疑問にもロディルは答える気がないらしく、再び笑い声をあげると「お前たちのような下等生物には関係のない話だ」と愉快そうに応えた。


「私はようやくクルシスの輝石を手に入れたのだからな! どれ、まずはわしが装備して輝石の力を試してやるわい」


 そう言って胸元からクルシスの輝石を取り出すと、ロディル自らそれを装備してみせた。その輝きを見て、ステラは無意識のうちに「それは、ダメ…!」と呟いていた。そう吐いたあとに、少女はアクアマリンを丸く見開いて、なぜ自分がそんなことを思ったのかを不思議に思っていた。
 隣にいたゼロスはそんな少女の呟きを聞き漏らすはずもなく、首を傾げた。


(『それは、ダメ』?)


 どういうことなのだろうかと青年は思うが、目の前でクルシスの輝石を装備して変貌を遂げるロディルを前にして、なぜなのかを問う余地もなく、戦闘態勢をとった。
 変貌を遂げたロディルはすぐさまロイドたちに襲いかかった。
 敵は単体ということもあり、陣形をとるのが楽だった。リフィルとジーニアスを後衛に置き、中衛をゼロスとステラ、コレットが固める。ロイドを中心に、リーガルとプレセア、そしてしいながロディルと対峙していた。


「フィールドバリアー!」

「みんなを守って――…ホーリーソング!」


 リフィルとコレットが補助魔法を唱える。全員はそれを皮切りに攻めに転じた。ロイド、リーガル、プレセア、しいなと連携を組んだあとに、銃を構えていたステラが銃技を放つ。


「ミスティアークっ!」


 ロイドたちの攻撃の隙を埋めるようにステラが弾丸を放った。放射状に放たれた弾丸で、ロディルが攻め入る隙を与えない。足止めをしたところで、ゼロスのサンダーブレードが的中する。ロディルは攻撃をする隙を与えられないままうめき声をあげた。


「あ、あれ…」

「ん?」


 いつもは好戦的な少女が、戦闘中に動きを鈍らせた。同じ中衛に立っていたゼロスはその微細な変化に違和感を覚えた。


「どったの、ステラちゃん?」

「もういいの…」

「え、え、なに?」

「…もう彼は、死んでしまうの」


 だから戦う必要はない、と少女は静かに言った。戦闘の時に見えるあの活発さが見受けられなかった。ゼロスは少女の言動が理解できず眉を顰める。とはいえ、戦闘に参加しないわけにもいかずゼロスは詠唱を続けるも、少し虚ろに鈍るアクアマリンを気にせずにはいられなかった。
 一方でロイドたちはロディルに少し押されながらも、リフィルの回復を受けながら善戦していた。これは時間の問題だと誰もが思ったとき、ロディルがうめき声をあげた。


「くぅ…何ということだ…。私の体が…体が…朽ち果てていく!」


 息も絶え絶えに言葉を吐きながら、ロディルは「だましたな、プロネーマ!」と悲痛な叫びをあげた。その間にも見るに堪えない程度に彼の体が腐食していっていく。ロイドたちは直視できず、目を逸らした。
 ロディルはよろよろと腐食していく体を歩ませ、中央の機械へと歩を進めた。


「しかしただでは死なんぞ。貴様たちも道連れだ!」


 最後の力を振り絞り、ロディルは何かのスイッチを押すと、それを最後に朽ち果ててしまった。
 その直後鳴り響く警報。何が起こったのか理解したリフィルが「いけない! 自爆装置だわ!」と声をあげた。ボータに爆破するなと言われていたことを思い出し、みんなはメインコンピューターに駆け寄る。
 しかし、ロイドたちの中で機械を扱えるのはリフィルしかおらず、しかし彼女一人では処理が追いつかないようだった。


「先生!」

「わかっています! でも、一人では…追いつかないわ」


 我慢できずに尋ねるロイドにリフィルは焦っているのか声を荒げた。一人で機械と向き合うリフィル。ロイドたちがそれを、固唾を飲んで見ていると自分たちが入ってきた扉が開いた。


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