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いずれにせよ、と女のひとの声が部屋に響いた。
「私たちは急がなければならなくてよ。この子のことは気がかりだけれど、記憶を取り戻すまで面倒を見ていてあげるわけにもいかないんじゃなくて?」
その声に部屋中がしん、となった。
教皇の追っ手もいつ来るか分からなくてよ、と最後の一言が寂しく部屋に響いた。
「で、でも先生……」
プラチナブロンドの長い髪をゆさゆさと振りながら、少女が非難の声をあげた。ここにおいてくわけにもいかないよ、と困った表情を浮かべて言う。
「あのさぁ、リフィルさま」
先ほどの赤毛の青年が少女との会話に割り込んだ。何かしら、とリフィルと呼ばれた女のひとが青年の方を向く。
「このお嬢さん、戦い方は覚えてるって言うくらいだぜ? それなりに戦力になるんじゃない?」
「……確かに。ゼロス、あなたにしては正論ね」
俺さまって普段どう見られてんのよ、とゼロスはがくりとうなだれて見せた。
でも、旅に加えるには条件があります、とリフィルが言う姿を、少女はなるほど『先生』と呼ばれるに相応しい感じだな、と思った。
「そうね、まずはこの子が私たちについてきたいと思うかどうか。それから、この子が私たちの旅で戦力となりうるか」
このふたつね、とリフィルが言い終えると一同が少女に視線を向けた。
「……私、は」
どうすればいいのだろう、と少女は漠然と思った。知らないひとたち、だけど優しそう。少なくとも悪いひとたちではないような。ここにいても記憶が戻るかは分からない、ならば。
少女はこくりと生唾を飲み、一言だけ伝えた。
「一緒に行きたい、です」
自分の意志を。