12-2


 長い通路を抜けた先にある絶海牧場は、どう見てもシルヴァラントという世界にはそぐわない構造と技術を持った建物だった。ステラは人間牧場を初めて目の当たりにしたが、この世界にとっては異形とも言える代物に見えた。
 内部構造もかなり込み入っており、トリッキーな仕掛けを解除しなければ先に進めず、ロイドたちは苦戦を強いられた。当然ディザイアンも中に巡回しており、仕掛けの解除とディザイアンを倒すことの二つに追われる羽目になった。
 少ししてエレベーターにたどり着くと、ロイドたちは足止めを食らうことになる。


「あれ? もっと上に行けないのか?」


 首を傾げるロイドに、リフィルが「さっき見た限りだとこの牧場にあるエレベーターはここだけね」と呟く。それはつまり、ディザイアンもこのエレベーターを使ってさらに上の階へ行っているということだった。


「そうなると話は簡単ね」

「どうするんだ?」

「ディザイアンに動かしてもらえばいいのよ」


 提案するリフィルに、ロイドは首を傾げる。脅しでもするのか、しかしそんなことでディザイアンがエレベーターを動かすとはロイドには思えなかった。分からず唸るロイドに、まるでヒントを与えるように、リフィルは続けて「騒ぎを起こしましょう」と言った。


「そうね…収容されている人たちに、反乱でも起こしてもらいましょうか」

「で、その騒ぎでディザイアンたちがエレベーターを動かしたところをねらうのか」


 リフィルのアイディアを理解すると、ロイドは言葉を繋げた。ステラはリフィルの頭の回転の速さに感心するばかりである。一方でしいなは「あくどいねぇ」と評した。リフィルの意見はひどく適切で、正しいけれど、お世辞にもきれいな手をは言えないようなことがあるのだ。それを分かっていてリフィルはしいなに「今は手段を選んでいる場合ではなくて?」と返した。


「ちょっと申し訳ない気もするけど、やるか」


 ロイドの声にみんなは頷く。
 フロアへ出て牢屋の鍵を解放すると、案の定収容されている人たちは暴動を起こし始めた。ざわざわとした喧騒の中、エレベーターが開いた。


「脱走の手引きをしたのはお前だな!」


 数人のディザイアンが囮になっているゼロスを取り囲む。ディザイアンがゼロスに気を取られている隙に、ロイドとステラは取り囲んでいるディザイアンを昏倒させた。


「ふい〜。囮ってわかってても焦るぜ〜」

「ゼロスくん、大丈夫?」

「おーよ、任せとけって。それより先、進もうじゃないの」


 心配そうに尋ねるステラに、ゼロスはにかりと笑って応えた。それに、こくりと飴色の髪を揺らしてステラが頷く。
 作戦通り、もと来たエレベーターを見てみると、上がることが可能になっていた。さっそくロイドたちはエレベーターを上がってみると、その先にはさらに厄介な仕掛けがまっていた。
 それは、ソーサラーリングを鳴らしながらトロッコのようなものの方向転換をして、最上階を目指すというものだった。かなり手こずったものの、なんとか登りきると、さらに色とりどりの光を帯びたワープエリアを飛び交うという仕組みも待ち受けていた。
 ここまでくると、この絶海牧場がいかに重要な拠点であるか、そして敵を侵入させたくないかがロイドたちにも嫌というほど分かる。
 度重なる戦闘と仕掛けの解除でロイドたちは疲弊しつつも、なんとか最上階に辿り着くことができた。


「この先に管制室があるんだな…」


 最後の扉を開くと、そこには案の定と言うべきか、ロディルが立っていた。ロイドたちは険しい表情でロディルを見た。彼は侮蔑するような目をロイドたちに向けながら「生きておったか…」と言った。


(ひどい、ひと…)


 ステラは胸元で拳をグ、と握り締めそう思った。散々コレットを苦しめ、プレセアの時間を奪ったあの男。それを見ていると少し体が変な風に力むのだ。プレセアはこれを怒りだと言ったのだろうなと少女は理解した。
 ロディルは相も変わらず蔑視の眼差しを向けながら、嗄れた声を吐いた。


「神子くずれとその仲間めが。ゴキブリ並みの生命力だのう」

「ヴァーリと二人で…私を騙したんですね」


 あまり表情を顕にしないプレセアが険しい顔をしながらロディルに向かってそう言った。プレセアの姿を見つけるとロディルは「プレセアか」と桃色の少女を見遣った。


「おまえがその小さい体でクルシスの輝石を作り出してくれていれば、もっと大事にしてあげたのですがねぇ」


 それだけ言うとロディルは呆れたように溜め息をついて首を振った。その姿を見て我慢できなかったプレセアは声を荒らげる。


「…消えなさい!!」


 そんなプレセアを小馬鹿にしたように、「ふぉふぉふぉ」と笑い声を上げるロディル。一頻り笑いを落ち着けると「まぁ、そういきりたたずに投影機を見なさい」と投影機を目で指した。
 そこに映し出された光景は、ロイドたちにとって信じられないものだった。


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