11-4
「だからマーテルさまには涙をのんで消えてもらうってか」
「マーテルはとうに死んでいる」
ユアンの言葉に、僅かながら感情が浮いて見えた。それが怒りなのか、悲しみなのか、ステラには判断がつかなかったが、今まで淡々と説明をしていた彼にしては不自然だった。
ボータが補足するには、マナの楔が抜かれたことで精霊の守護が弱っているらしい。リフィルが「それで私たちと手を組みたがっているのね」と合点した。
「ユアン、おまえはクルシスか? それともレネゲードなのか?」
「…私はクルシスであり、レネゲードの党首でもある」
「要するに裏切り者か」
腕を組み、ゆっくりとした口調でユアンは答える。それをゼロスが鋭い目つきでユアンのことを揶揄した。
(裏切り、もの…)
いつもと違うゼロスを目の当たりにすると、ステラはいつも困惑する。時折見せる悲しそうだったり怖かったりする彼の顔に、少女の心はかき乱されるのだった。
ユアンはそれから「さあ、どうするのだ?」と結論を促す。
「…わかった」
「信じるの? ロイド」
「信じるさ。こいつは自分の裏切り者としての立場を明かした。それってやばいことなんじゃないか?」
「…私も信じる」
ロイドの一言を初めに、コレットたちも口々に頷く。ユアンはそれを見やると、ロイドたちがロディルの牧場へ向かうことを確認した。
「ほんとによく知ってるねぇ。こっちに密偵でも放ってるんじゃねぇのか」
ゼロスの一言にロイドは笑って頷くと、「まあいいや。魔導砲ってのが完成する前にどうにかしたいんだ」とユアンに言った。
ユアンはそこに偵察もしているのか、牧場魔導砲のシステムが連結しているので、完成室を無効にするといいといったアドバイスを口にした。
「準備ができたら、ボータに声をかけてくれ」
それだけ残して、ユアンはその場を去ろうとしていた。
「あ、あの…!」
そこで口を開いたのは――ステラだった。震える声で、一歩、進み出る。怯えているくせに、二つのアクアマリンは強く光っている。
「なんだ」
「私は、レネゲードの人間、ですか? それとも、クルシス?」
その一言に、ユアンと、そしてゼロスは驚いた。ユアンからしてみれば、前回分かるくらいの反応をしてしまったので、いつか訊かれるとは思ってはいたが、まさかこのタイミングで訊かれるとは思ってなかったようだった。
返事をしかねていると、少女はたまらなくなり、ぼろぼろと言葉を吐き出す。
「この間、私のこと、知ってるような感じでしたよね。だから、もし、ユアンさんが、クルシスでレネゲードなら、私は、そのどちらかじゃないかって…思って」
「悪いが、私は」
知らない、とユアンは続ける。ステラは「そうですか」と残念そうに眉尻を下げた。そんな少女を余所に、ユアンは颯爽とその場から立ち去っていった。