11-3


 パルマコスタ牧場に到着すると、待ち受けていたのはディザイアンではなく――レネゲード。何人かの部下を連れ、ボータがそこに立っていた。


「お前たちを待っていた」

「おかしな話だな。我々がここに向かうのが予想できたというのか?」


 ボータの言葉に、リーガルが怪訝そうな顔をして尋ねる。ロイドたちがここに来ることを決めたのは、ほんの数時間前である。それを、なぜレネゲードが察知できたのか。明らかに不自然な話だった。


「さぁどうだろうな」


 飄々とした口調でボータは言う。それから、手を組まないかと続けた。あまりにも唐突な話でリフィルは溜め息をつく。


「ロイドやコレットを散々狙ってきておいてムシがいいとは思わなくて?」

「あのときと今では状況が違う」


 聞き覚えのある凛とした声に一同が声がした方を向くと、そこにいたのは、レネゲードのボスであるユアンである。驚くロイドたちを意にも介さず、ユアンは言葉を続けた。


「大樹カーラーンを知っているか?」

「聖地カーラーンにあったっていう、伝説の大樹か?」


 僅かに喧嘩腰の口調でゼロスが問う。それから、無限にマナを生み出す生命の樹だ、と付け加えた。
 おとぎ話ではないのかというコレットの疑問に、ユアンは首を振る。それは実在していたが、古代カーラーン大戦でマナの枯渇で枯れ、今は聖地カーラーンに種子だけで眠っているのだと、ユアンは言う。


(カーラーン…聖地、カーラーン……)


 ステラはゆっくりとその言葉を反芻する。この世界に残る伝承で、誰でも馴染みがあるはずの言葉。けれど、そんなものではなく、もっと生々しいカタチで、自分は知っているような気がするのだ。
 さらに、自分のことを知っているユアンという男が言うのだから、余計にステラは自分が何かこのキーワードに関係しているのではないかという感覚がするのだった。


(でも、そんなはず、)


 ないのだった。この話は古代カーラーン大戦なんて、自分が生きてるはずのない時にあった大樹で、そんなもの、知らない、知ってるわけが、ないのだ。


「…ステラちゃん?」

「わ、」


 目の前に飛び込んできたのは、朱色。それからサファイアブルーの瞳。あまりに唐突だったので、驚いてステラはよろけた。


「大丈夫か? なんか、すごくぼーっとしてたけど」

「うん……平気」


 ごめんねと眉尻を下げて謝るステラ。ゼロスは不審そうにしたままであったが、ユアンの話がずっと続いていたので何も言わないことにしたらしかった。
 ユアンの話では、大樹カーラーンの種子を大いなる実りと呼んでいて、それを目覚めさせて二つの世界をひとつに戻すことがレネゲードの目的らしい。そして、大樹を目覚めさせ、世界をひとつにすれば、マナを搾取し合う世界が終わるのだと告げた。


「どうしたら大樹が復活するんだ?」


 ロイドの質問にユアンが答える。大いなる実りは死滅しかけている、と。


「それを救うために、純粋なるマナを大量に照射する」


 ユアンの案にリフィルが「そんなものあるわけないわ」と批判する。それにもユアンはクルシスの拠点のデリス・カーラーンが巨大なマナの塊でできた彗星だからそれを使えばいいと答えた。
 けれど、現状は種子のマナは全てマーテルに捧げられ、クルシスの輝石で心だけ生きながらえている。そしてマーテルが復活すると大いなる実りに吸収されて取り込まれてしまう。その逆もまたしかりであり、それを止めるために、ユグドラシルは精霊の楔で封印をしているのだという。


「我々は大いなる実りを発芽させる」


 そして、マーテルが種子に取り込まれ、消滅する、とユアンは言った。


「そして大樹カーラーンが復活する…!」


 ロイドがユアンの言葉を受け取り、続けた。


「もしそうなれば、二つの世界はもとに戻るんですか?」

「…それはわからんが、種子が消滅すれば世界は滅びる」


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