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01.メモリーフラグメント「良かった、目を覚ましたみたいだよ!」
知らない部屋に、見知らぬひとたち。
どうやら自分はベッドに横になっているらしい。
部屋を見渡すと、周りのひとたちはほっとしたように息を吐いていた。
「ここは、どこ…? 私、は一体…?」
口をつくのは当然、疑問の言葉。少女は首を傾げて先ほど声をあげた少年をまじまじと見つめた。
「ここは宿屋よ」
一つ目の疑問の答えは少年の隣にいる女のひとから返ってきた。続けて、まだ横になっていた方がよくてよ、と女のひとは身を再び沈めるように少女をベッドへと横たわらせる。
「ところで君、名前は? どうして倒れてたの?」
これでもかというくらい身を乗り出して質問してくる少年に少女は思わず怯む。それを察してか、女のひとがやめなさい、と少年を窘める。
そんな光景を見つめて少女は長考する。自分は誰で、何があったのだろう、と。
けれど頭のなかにあるものが所々消えているようで、いまいち考えが纏まらない。
少女が黙々と考えているのに気づいたのか、女のひとが優しくこちらに微笑む。
「言えないのなら、無理に言わなくていいのよ」
「…思い、出せないんです」
どこか虚空を見つめたまま、少女は誰に言うわけでもなく呟いた。
「じゃあ、お嬢さんは記憶がない、ってことか?」
真っ赤な髪をした青年がこちらに身を寄越して尋ねた。すると少女はいいえ、と首を振る。
「ちょっとだけ…」
そこで少女はベッド脇にあった長銃に手を伸ばした。空っぽの頭のなかにあった僅かな記憶が教えてくれる。これは、自分の武器なのだ、と。
「戦い方だけ、覚えてる」
「…戦い方、ねぇ…これまたすごいお嬢さんだわ」
赤毛の青年は長い髪をふぁさりと靡かせて驚いてみせた。その大袈裟な動作に少女は少しだけ微笑む。青年は少年の表情を眺めて、笑ったお嬢さんの方が可愛いぜ、とふっと笑った。