9-5
『お姉ちゃんに、お願いがあるの』
「なに、アリシア?」
『ブライアン様を、さがして……』
「あなたが奉公に出た貴族のこと?」
『…そう。彼が私を殺すことで……』
その先は聞き取れない。そのひとがあなたを殺したの、とプレセアがそう訊ねようとしたが、アリシアは声とともに姿もすうっと霞んで、いなくなってしまう。
「……プレセア、」
「ロイドさん、お願いがあります……妹の仇を探してもらえませんか」
ステラの声は、プレセアに遮られる。ロイドたちに背を向けたまま震えた声でプレセアは呟いた。
「分かった。そのブライアンってやつを探して、俺たちが叩きのめして、連れてきてやる!」
「そうだよ。君の妹を殺すなんて、許せない」
そんな彼女の背を見つめながら、ロイドが頷く。続けてジーニアスが頷いた。他のみんなも黙ってはいるが、恐らく肯定なのだろう。けれどステラは自分の中に、ロイドたちとは少し異なった気持ちが沸き上がっていることに気がついた。
(……ちがう、たぶん…そうじゃない)
アクアマリンの瞳が捉えた、アリシアが見せた最後の表情は、憎しみや怒り、そんなものでは決してなかった。
(うれし、い…?)
それとも少し、違う。しかし飴色の少女は確かにその表情、それから抱かれる感情に覚えがあった。あれは一体なんだったか。
(私は知ってる……この気持ち、を)
思い出そうとしたが、ぽつりとした声に思考が途切れる。
「……エクスフィアって、恐ろしいものなんだね」
ステラがはっとして振り向くと、そこにはミトスの姿。憂いだろうか、悲しみだろうか、彼の瞳はそんな感情を包括したようにも見えた。
「そうだね…」
ちくり、とした痛みが胸を刺す。それが言葉を紡ぐことに抵抗を覚えさせるのだろうか、ステラが黙っていると、ジーニアスが短く答える。
「おーい、おいてくぞ!」
ロイドの声に、三人は空中庭園に別れを告げた。
(その気持ちの名は、)