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「アリシアは貴族のブライアン家に奉公に出ていたのですが……事件に巻き込まれて、亡くなってしまいました」
「……」
沈黙するプレセアの背中がやけに痛ましく見えるのはステラだけではないのだろう。かける言葉もなく、ロイドたちも口を閉ざしていた。
「レザレノ・カンパニーの本社の空中庭園にアリシアの墓があります。妹が顔を見せてくれれば……きっと彼女も喜ぶでしょう」
最後にそれだけ告げると男性は会釈してその場を後にした。
「あれ? プレセアって確か、妹がいるって言ってなかった?」
ジーニアスが首をひねる。プレセアには妹がいると聞いていたが、男性を話を聞く限りはプレセアが妹ということになっている。この矛盾が気になったのか、プレセアに訊ねてみるが、彼女は依然として閉口したままだった。
「あ! きっと三人姉妹なんだよ〜!」
「ンな馬鹿な……」
閃いた、と手を叩くコレットに、髪をがしがしと掻きながらゼロスが彼女の発想に呆れかえって声をあげた。
「あの、」
プレセアは振り返り、顔を上げてロイドたちを見つめる。それからアリシアの墓に行かせてもらえないでしょうか、と続ける。ロイドがジーニアスに視線を寄越すと、ジーニアスはこくりと頷いた。それを確認すると、ロイドはみんなを見渡して告げる。
「行こう」
「…ありがとうございます」
「じゃ、レザレノ本社に向かうとしますか」
ゼロスはそう切り出すと、やはり土地勘があるようでロイドたちを本社行きの乗り場へと案内した。
* * *
青い空は、レザレノ・カンパニーの屋上からでも尚、遥か遠くに見えた。雲一つない快晴が少しばかり、申し訳なく思える。かたかた、と機械音が鳴るエレベーターで上った先、些か人工的ではあるが、どこか桃源郷のような空間。それがレザレノ・カンパニーの空中庭園だった。その中央でプレセアの家族、アリシアは眠りに就いている。
「あれ、これって…?」
墓石に埋め込まれたものを見つめてステラが呟く。なぜこれがこんなところに、そんな疑問が頭を過ぎると同時にふわり、と声が響いた。
『お姉ちゃん…来てくれたのね……』
「!」
声とともに姿を現したのは、プレセアと同じ色の髪をした少女。突如現れた少女に、ロイドたちも驚きを隠せない。
「アリシア…こんな姿になってもまだ、生きていてくれたの…?」
プレセアの言葉に、アリシアは肯定とも否定とも取れるような曖昧な微笑みを浮かべた。少女の声が再び庭園に響く。
『私は、エクスフィアに体を乗っ取られて死んだの。だから……精神だけが、このエクスフィアの中に閉じこめられてしまった』
「そんな…! あなたまでエクスフィアの被害に……」
プレセアが悲鳴にも似た声をあげると、ロイドたちは無意識に自分たちのエクスフィアに手を添えた。ステラも装備しているエクスフィアに触れる。どこかあたたかいけれど無機質なそれの触感が、虚しい。