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「アルタミラって、すごい、ね…」
「そっか、ステラちゃんはアルタミラは初めてかぁ〜。ここは、リゾート開発が進んだ都市なんだ。だから観光に来る人も多いのよ」
アーチを潜るなり、大きな建物とたくさんの人を見て驚くステラにゼロスが簡単に説明を加える。あの建物は豪華な宿屋であることや、遥か遠くに見えるのは街を作り上げているレザレノ・カンパニーの本社であることなど。
ステラは彼の話を聞くと、感嘆の声をあげて、さらに興味深げに街中をきょろきょろと見渡してはしゃいでいた。
「ちょっとステラ? 姉さんを探しにきたこと、忘れてないよね…?」
「! ご、ごめん…忘れて、ない…!」
きらきらと目を輝かせて楽しそうに辺りを歩き回るステラにジーニアスがじろり、と視線を少女に寄越す。はっ、として我に返ると、ステラは申し訳なさそうに眉尻を下げて謝る。
決して今の状況を忘れていたわけではなかったが、初めて見た人混みや大きな建物は、少女ひとりを喜ばせるには十分すぎる材料である。ジーニアスもそれは分かっていたから謝る少女に、覚えているならいいんだ、と返す。
アルタミラの浮かれた雰囲気から落ち着きを取り戻すと、ロイドたちはリフィルの行方を訊ねてまわった。しかし、ただでさえ人の多いアルタミラである。なかなかリフィルの姿を記憶している人には巡り会わない。
「なかなか見つからないな」
「…どこに行っちゃったんだろう、姉さん」
この街の気候も相成って、体力が想像以上に消耗される。額の汗を袖で拭いながらロイドがひとりごちる。隣ではジーニアスが俯いたまま、嗄れた声で呟いた。きっと大丈夫だよ、と肩に触れるミトスにも弱々しく頷くばかり。
「まだ訊いてない人……あ、いたよ、あそこ!」
確かあの人にはまだ訊ねていない。だからもしかしたら、という思いを胸に、ステラは声をあげた。確かに話しかけてないな、とロイドが駆け寄ると、その人は、身形のきちんとした男性だった。
「あの、すいません…」
ステラの声に男性は振り返ると目を見開いて後退る。視線の先にいたのは、プレセア。けれど、呼びかけられた名前は違うもの。
「あ、アリシア……?」
「アリシア?」
プレセアと男性を交互に眺めながら、ゼロスがその名前を復唱する。
「アリシアは…私の姉妹です。彼女のことを知っているんですか?」
プレセアは男性をじっ、と見つめる。男性はもう一度プレセアを一瞥するとゆっくりと息を吐いた。それから「そうだな、アリシアはもうずいぶんと前に亡くなっているものな」と続ける。
「そんな…! どうしてですか!」
その言葉に驚いたのか、コレットが悲鳴のような声をあげる。ステラからはプレセアの背中しか見えないが、彼女の表情を想像するのは難しいことではない。男性はちらりとコレットを見、それからアリシアという少女について話を始めた。