6-4
「私、ちょっと出るね」
「ん? 分かったよ」
部屋の中を振り返ってそう告げると、コレットとプレセアが「いってらっしゃい」と微笑んだ。
促されるままロビーへと向かい、そこで背を向けていたゼロスが、くるりとステラの方を見る。
「どうしたの?」
話が見えず、再び首をひねるステラにゼロスが腕をすっと差し出す。
「なに、これ……?」
手の上のものとゼロスの顔を交互に見つめながらステラは呟く。そこには白くて丸い――うさぎだった。
ゼロスは「お土産だ」と言ってウインクをひとつ。
「わ…ありが、とう…」
ステラはそれを受け取り、手のひらで包むとやんわりと微笑んだ。それから目をぱちぱちさせながら「でも、どうして?」と尋ねる。
「……そっか、やっぱステラちゃんは知らないよな」
そう言ってゼロスは頭を掻いてステラに説明をする。
この街フラノールではこの雪うさぎが名物なこと。そして、これは幸運の御守りだということ。
一通り述べると、嬉しそうに笑うステラの顔を見つめてゼロスもニヤリと笑う。
「ステラちゃんに、いいことがありますように…ってな」
「いいこと? 記憶が戻るってこと?」
ステラは、アクアマリンの双眸をぱちりと開いてゼロスに尋ねる。答えは「さぁな」と非常に曖昧なもので。
「昔の記憶が、今のステラちゃんにとっていいものとは限らなかったら?」
その質問はステラにとっては考えもしなかったもので、突然の疑念に少女は狼狽える。
(私の記憶が…?)
もし今の自分にとって昔の記憶がいいものでないならば、一体自分はどうすればよいのだろうか。
記憶を探すためにみんなと旅をして、仲良くなって…それで記憶が自分にデメリットになるとは、そもそもどういうことなのだろう。
否、実際のところ、なぜゼロスが自分にこのような問いを投げかけてきたのかも、少女には不明だった。
「それはどういう、」
意味なの、と尋ねようとして、口元にそっと当てられたゼロスの指に、ステラの言葉は制される。
完全に少女が黙したのを確認すると、ゼロスは踵を返して部屋の方へと去っていく。
「それ、大事にしろよ」
「……」
ひらひらと漂うゼロスの手のひらを、少女はただただ見つめるばかりだった。
(真っ白で、何も見えない、分からない)