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「……ユアン様」
「まぁいいさ。どうせ奴がいる。すぐに居場所は知れるさ」
飛び立ったロイドたちを見つめてユアンは静かに言った。それからくるりと身を翻してボータの方を見る。
「それよりボータ、今の揺れを至急調べてくれ。もしかしたら精霊の楔が抜けたのかもしれない」
「……分かりました」
そう言うとボータは急いで部屋を出て行った。部屋にはユアンひとりが残された。
静かな部屋でユアンは長考する。嫌な予感が背中を駆け抜けた。
(しかし、あの少女…まさか、な)
有り得るわけがない、そう呟いてユアンも部屋を後にした。
* * *
「すっげぇな、このレアバード!」
大空をレアバードで飛びながらロイドが歓声をあげた。以前とは大違いだと、滑空する感覚に酔いしれていた。
「確かにレアバードはすごいけれど、遊んでいる場合ではなくてよ」
浮かれるロイドにぴしゃりとリフィルが一喝する。
「早く、コレットを助けなきゃ」
「……分かってるよ」
ステラの言葉で本来の目的を思い出したロイドは、少し拗ねたような口調で答えた。
「コレットさんが連れて行かれたのは…あっちの方だった、気がします」
プレセアが目的の方角を指し示すと、ロイドは頷いて言われた方へと進路をとった。
空を翔るレアバードに跨りながらステラはふと考える。
(ユアンってひと…私を知ってた…?)
あの様子だと、つまりはそういうことなのだろう。しかしなぜ、レネゲードである彼が自分を知っているのかはいくら考えてもしょうがないことだった。
自分は昔レネゲードに属していたのか、それともまた別の何かで知っているのか…。
(思い出せ、そう…)
ステラはふわりと意識を自分のなかに沈めると、少しだけ思い出せそうだと思った。
もっと深く思い出そうとすれば分かりそうなのに、どうしてなのか、何かがそれを拒否しているような気がした。
(なんだか、嫌な予感がする…)
「……ステラ、大丈夫かしら? まだ治療していないものね」
考え込んでいたステラは、いきなりリフィルに声をかけられて驚いた。びくりと体が跳ねてしまい、思わずハンドルから手を離してバランスを崩してしまいそうになる。
慌ててハンドルを握り直して、先程のハプニングによって心拍数が上昇した心臓を落ち着かせて微笑む。
「私なら大丈夫ですよ、先生?」
先程の暗く、考え込んでいたときの表情とはうって変わってへらりと無邪気に笑ってみせるステラに、リフィルは安堵する。
けれど、この子は時々すごく深い表情を見せる、とも思う。それは彼女にとって、何か隠しているのではないかという疑心がある、という意味であるのだが。リフィルはとりあえず今は、そのことを考えるのはやめておくことにした。
レアバードは空高く、コレットのもとへと飛んでいく。
(ふたつめの記憶の欠片は、あなたなのかもしれない)