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そうだ、この子は名前を思い出せないんだったね、としいなは腕を組みながら呟く。
「……で、どうすんのさ。名前がなきゃ、旅をするうえで色々と不便じゃないかい?」
「そうねぇ…あなた、なにか思い出せないかしら?」
「ごめんなさい、まだ……」
少女がアクアマリンの双眸を伏せがちに答える。ならいいのよ、ごめんなさいね、とリフィルが謝った。
そのとき後ろから、そうだ、とジーニアスが何か閃いたような声をあげた。
「ボクたちで、かわりの名前をつけてあげれば良いんだよ」
「それ、名案じゃないの」
「あっそれ、いいね〜」
「勝手に話を進めないの。まずは彼女に訊きなさい」
盛り上がるジーニアスたちにリフィルが一喝する。それから、それでいいのかしら、と少女に向かって問いかけた。
「……うれ、しい」
少女は申し出に、にっこり笑って頷いた。飴色の髪の毛がふわりと靡く。
(嬉しい、どこかで……)
感じた気持ちとおなじだ、思い出そうとして、でもどこか喉でつっかえてしまうような、もどかしい感覚。
そばで少女の名前をどうするか話し合っている声すらあまり聞こえないくらい自分のなかへと意識が沈んでいた。
「……ステラ、なんてどうよ?」
ゼロスの声で少女ははっとした。声の主をまじまじと見つめるとにこりとこちらに笑いかけてくる。
「……ステラ」
その名を反芻してみる。どこか懐かしい感じがした。
『そうだ、君の名前は……』
『……ステラなんてどうかな?』
(私の、名前は、)
「私の名前…、ステラ…思い出した…」
少女の呟きにゼロスがえっ、と驚きの声をあげた。ステラ、ステラ、と繰り返し少女は名前を反芻する。
「じゃあ俺さま、本当の名前を当てちゃったのかしら?」
きょとんとするゼロスに、にこっと少女は笑って頷く。
「ありがとう、ゼロスくん。私の名前は、ステラだよ」
改めてよろしくお願いします、とステラはみんなに向かって一礼する。
はっ、こんなこともあるんだねぇ、としいながゼロスを一瞥してしみじみと呟いた。
(あなたがくれた名前、嬉しい、大切な記憶のかけら)