(ああまた人集りだ……)
窓から見える人の塊を、頬杖をついて浅緋は眺めていた。氷帝テニス部といえば、部員は勿論取り巻きも大勢いる。颯爽と歩く部長――跡部景吾の周りを囲うように、女の子たちは立っていた。
そんな様子を眺めるのが、浅緋の日課だった。あんな風に取り巻いて楽しいのだろうか、なんて。
「……っ?」
ふとした拍子に、人混みの中央にいる跡部がこちらに視線を寄越した気がした。浅緋は慌てて知らないふりをして一度視線を反らしてから、再び跡部を見てみたが、彼はこちらを向いた素振りすらなかった。
(……そんなわけ、ないか)
あんな風に取り巻きに囲まれた人が、遠くの窓から人集りを眺めている人間の視線が気になるわけがない、そう浅緋は思った。
しばらくすると、跡部を囲う人集りは彼ごと霧散していったようで、先程は賑わっていた校庭は閑散としている。
窓にも夕日が射してきて、その眩しさに浅緋は目を細めた。
「いつまでそこにいる気だ?」
突然教室内に響いた声に驚いて、浅緋がゆっくり振り返るとそこにいたのは、先程の人集りの中心人物。
「跡部…くん?」
跡部は夕日の溢れる教室に、薄黒い、長い影をつくって立っていた。
「お前、そこから俺様を見てただろ?」
やはり分かっていたのか。だからといって、どうしてわざわざここまで来て理由を問うのか、浅緋には皆目見当がつかなかった。
「……」
「おい、聞こえないのか?」
「……っ」
「何か言ったらどうだ?」
「…見て、ました」
暫し回答を躊躇っていた後に浅緋がゆっくりと肯定の意を示すと、跡部はそうか、とだけ呟いて再び黙する。どうしていいか判らず、浅緋も口を閉ざして彼を見つめるばかり。
「……何で見てた?」
唐突に問われた言葉。どうして? なぜ? ――そういえば、自分が彼の人集りを見ていたのはなぜだったのだろう。
(たまたま目に入ったから? ――ちがう、けど……)
「わから、ない……」
きょとんとして跡部を見つめる浅緋。そんな彼女を一瞥すると、跡部は前髪をくしゃりと掻き上げて、わざとらしい溜め息をひとつ。
「見かけによらず、鈍いな」
「鈍い…って、私が?」
「他に誰がいるんだ、アーン?」
「……いません、ね」
あはは、なんて渇いた笑いが教室に響く。それから浅緋は跡部の言葉が引っかかり、思考を巡らせる。
(鈍い、私が? なんで?)
真剣な顔――しかし跡部から見ればぽかんとした顔をしている浅緋に、跡部はもう一度大きく溜め息を吐いた。
「……まぁいい。いつか俺様が分からせてやるよ、――その理由」
そう言って、跡部はがらりと教室の扉を閉めて退出していった。残るは、廊下で反響する彼の足音と柔らかな夕日の名残。浅緋はぽかんとしたまま、彼が出ていった扉を見つめていた。
(なんでとか、判らないよ)
▽
とか調子乗ってテニプリでした。
インサイト聴いてたら書きたくなったけど不燃気味です…。久々すぎて似非臭いべー様でごめんなさっ。無論、自己満足なので毎度のことながら、読み手の方には優しくない作りでした(笑)
もともと峰ズが好きだったわたし(余談)