A

好きな人のタイプになりたい。好かれたい。いいところを見せてやりたい!想い人がいる者の執念とは時に奥ゆかしく、時に激しく、時にめんどくさいものである。
@@の好みのタイプを計らずも知ったキセキ6人は全速力で家庭科室になだれ込み、備え付けのエプロンをまとってババン!と無駄にかっこよく並んだ。

どこからか三分クッキングのテーマが流れてくる。

「男は胃袋から落とせとはよく言ったものだ」

赤司がおたまを片手に腕組み

「料理とかあんましねえけど煮て焼いて醤油かけときゃ大丈夫だろ」

青峰がフライパンを眺めながら謎の自信を見せ

「なせばなります」

そう言いながらも菜箸を一本ずつ両手に持った黒子は不安げ


「こんなこともあろうかと料理番組の内容はコピー済みッスよ」

黄瀬は早くも裏技を使う気満々


「……」


とりあえず緑間はカレールーのパッケージの背面を熟読中


「@@の好きなもの一番知ってんの俺だし」

幼馴染みの特権は生かせるか紫原。


家庭科室はこれから戦場となる。
誰かがフライパンをお玉で叩いた音が開戦の合図だった。





人でも殺しにいくのかあんたら。
家庭科部部長である女生徒は命の危険を感じるプレッシャーと異臭に顔を歪めた。
後輩たちが怯えきっている。なんとかしなくては



「あの…ちょぉーっ!!!何作ってるんですか!?」
「見てわかんねえのか、目玉焼き」
「油くらい引いてぇ!!焦げ焦げじゃないのよぉ!!原型ないじゃないのよお!」
「あ、これはスクランブルエッグか」
「焦げた卵だよ!!」

男の料理にも程がある青峰の手さばきはとにかく適当だった。
油も引きやしないし調味料は全部目分量。

「料理くらいできるってわかりゃ@@も見直すだろ」


やべえな、とか言いながらぐっちゃぐっちゃ卵をかき回す青峰が一番ヤバイ。家庭科部部長は目を覆ってテーブルを移動した。


「三分クッキングだとここで完成してたんスけど…」


黄瀬の料理は下ごしらえと序盤までは完璧だった。
しかしお手本にした番組が悪かった。途中で完成品がばぁんと出てくるのだから。中途半端に出来上がった料理を見て唸っている。

「(こ、こっちは比較的まともかしら…)」

焦げてるわけでも異臭を放っているわけでもない。少し中途半端なだけ。
ほっと胸を撫で下ろし部長はその場から移動しようとする。


「まあ料理は愛情ッスよね!@@っちの好きそうなもん入れとけば万事オッケーッス!えーとまずやきそばパンとコーヒー牛乳…」
「待て待て待て待て!!」
「え、なんスか」
「組み合わせおかしい!そのシチューになんでそのチョイス!?」
「@@っちやきそばパン好きなんス」
「好きなもの+好きなもの=超好きなものにはならないわ!」

黄瀬は不満そうにシチューに突っ込もうとしていたやきそばパンを引っ込める。部長が胸を撫で下ろしたのもつかの間、


「じゃあ手っ取り早く料理で惚れさせたいんで惚れ薬ないスか?」
「ねえよ!!」
「媚薬でもいいッスよ…わああどうしよう@@っちに迫られたらぁああ!!」

勝手に盛り上がり始めた黄瀬を置いて部長はそっと移動した。


通りすぎかけたテーブルから突然火柱があがった。
ぎょっとして振り替えると赤司が中華鍋片手に中のものを混ぜている。
酒類を扱えば多少火柱があがるのはわかるが、赤司が作った火柱は天井に届く勢いだった。

「火事になるわぁあ!!」
「やあ、部長。今回はすまない、家庭科室を貸してもらってしまって」
「(あんたらが貸さないとどうなるかわかってんだろうなって脅したんだろうが)あの…何を作ってるんでしょうか…」


思わず敬語になりながら部長は赤司の鍋の中身を見た。
真っ赤だ。もう赤色しかない。深紅。

「僕といえば赤らしいからね。好きな相手にも同じ色であってほしいと思うのは至極当然なことだと思わないか?」
「えっと…ええまあ…」
「だから中身から攻めようかと思って」


笑顔で赤司は豆板醤の瓶をひっくり返した。中身は重力に従って全部鍋へ落ちていく。更に赤みと、涙がでるようなむせかえる辛い臭いが漂ってくる。こんなもん食ったら中身どころか外身まで真っ赤になる。血で。

「もうだめ…!もうだめ…!!」
「少し作りすぎたな。まあ@@なら食べてくれるだろう」

だんだん@@の安否が部長は心配になってきた。



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