@

お ち つ け






なぜこうなった?どうしてこうなった?

なぜ?なにゆえ?




「(なんで俺赤司と素っ裸で寝てんだ…!!?)」


@@が目を覚ましたのはほんの数分前のことだった。
肌に冷たい風を感じ、暖を取ろうと丸くなったらやけに暖かいものに体がぶつかる。肌触りも温度も丁度いいそれになんの疑いもなくしがみついたのだが、なんだろう。この生々しさは。指先に伝わる脈動は。


おかしいなあ。しょぼつく目を擦って重たい瞼を開いてみれば飛び込んできたのはなんとも端整な顔立ちのドアップ。この燃えるような赤い頭髪の持ち主を見間違えるはずがない。


「あか…………………えっ」


おかしいぞう。@@はゆっくり体を起こす。するりと体から布団が滑っていったのだが、なぜか何も着ていない。


「…………………えっ?」


お互いに。



全身から力が抜けていく。腕が、足が、体のそこかしこがガタガタブルブル寒くもないのに激しく震えた。そして止まらない冷や汗。こういうのドラマで見たことある。
シーツに汗が染み込んでいく。ああ、よそ様の布団だというのに。
いいやシーツの前に、自分はもっと何か大変なものを汚してしまっていないだろうか?


「ん…」
「(ビックウ!!!)」


例えばこの男の純潔のようなものとか。


@@の横にあった布団の膨らみが揺れた。
薄手の毛布がはらりと捲れ、中からおでましになった眩しいほど白い肌。陶器のような透き通る色に思わず@@はごくりと生唾を飲み込んだ。


しかし相手は男なのである。


「(しかも赤司!!!!)」


何故こうなった



確か昨日は後日に控えた試験のために赤司に勉強の監督を頼んだはず。
明日日曜だし泊まり掛けできたらいい。赤司の提案は甘美なもので、おいしい夕食から夜を明かすためのアルコール類まで何もかもご馳走してくれた。

やっすい缶ビールではなく、よくわからん横文字の名前のワインを開けてもらって興奮していたところまでは覚えている。




「(そ、そのあと……)」


面白いほどに覚えていない。昨晩の記憶のページが真っ白けだ。
転がる空き瓶、無造作に投げ出された衣服たち、裸な二人…
どう考えても致してしまった次の日の光景だ。パジャマパーティーが白熱しただけとは思えない。この場所に第三者がやってきた場合言い逃れは百%できないだろう。



「(い、いや落ち着け…酒に酔ってただ脱いだだけって可能性がないわけじゃねえ。おおおお男同士の酒盛りなんて脱いでなんぼだ、そ、そうだ)」
「@@…?」
「ぴゃ%&//'(!!!」


背後からそろりと背筋をなぞられて@@は自分でも訳のわからない叫びをあげながらその場を飛び退いた。髪を逆立てて背中を丸める様は威嚇するネコそっくりだ、とあくびを噛み殺しながら赤司は思った。


「早いんだな、意外だったよ」
「い、いやあの、早く起きざるをえなかったというか」
「勉強ならまた後で見てやるから、まだ寝ててもいいんだぞ」


ぽふぽふと赤司が自分の横のスペースを叩く。誘われている。
また@@の汗腺はどばあと冷や汗を噴出させた。
赤司の顔が恐ろしい。いや、威圧感の笑顔だとか瞳孔がかっぴらいているとかそういった類いではない。優しく微笑んでいる。@@は逆にそれが恐ろしかった。


「な、なあ赤司…その、昨日…」
「気にしなくていい」
「へっ」


「僕の体は平気だ」



@@が存外優しくて驚いたよ。なんて赤司は視線を斜め下にずらして照れ臭そうにしている。控えめな笑みはまるで恋する乙女のそれに似ていて目眩がした。@@は白目を向いて今にも昏倒寸前である。


「そ、そんな、あれを、俺は、それで」
「……@@、随分顔色が悪いがどうかしたのか?」
「えっ、いや」
「まさか」


赤司の目がすうと細まったかと思うと、ダアン!と耳にそばから衝撃音。次の瞬間には@@の顔の横の髪がはらりと落ちていた。
顔をゆっくり音源の方へ向けてみれば、壁に深々と鋏が突き刺さっている。赤司の顔が見れない。プレッシャーが形を成して@@にのし掛かってきているようだった。


「覚えてないとか言うんじゃないだろうな」



殺される。

ここで覚えてないですなんて言ってみろ。
一撃必殺グッバイ今生。もうすでに素っ裸のふくよかな体をした天使たちがお迎えスタンバってるわ。帰りやがれ。……それらを追い返し@@が生き残る道はたった一つ。


「き、昨日はとても……よかったです…」


口裏をあわせること。





ああ、よかった。もし覚えていないなんていったら切り落とすところだったよ。え?どこを?言わせる気か?昨日といい@@はそういうやり方が好きなんだな。@@の性癖なら受け止める気でいるから構わないが。



俺はどんな性癖を晒したんだ。

赤司の言葉は@@を絶望のどん底に突き落とすには十分すぎた。


「少し喉が痛いな」


それを聞くやいなや@@は昨日酒を割るために買った水のペットボトルをキャップを握りつぶす勢いで開け素早く差し出した。赤司が苦笑している。


「ありがとう。でもそんなに顔を青くするほど悪くはないよ」
「そ、ソッカー…そうだよねー、あ、あはは…赤司が声……我慢…しないから…はは…」
「出させたのは@@じゃないか」


否定しろ!してください!!
何を言っても肯定される。頬まで染めて!かわいらしく!

赤司が水を口に含み、数回喉が上下した。
致してしまったあとのためか妙に意識してしまってその動作を生唾を飲んで眺めてしまい@@はかぶりを振った。


「どうした?欲しいのか」
「お、俺はいいよ…」

潤ったみずみずしい唇にやたら視線がいく。
やましい気持ちを持ってはいけない、これ以上の被害を防ぐためにも…!@@はとにかく自分を叱咤して赤司から目を背けた。


「@@」


名前を呼ばれて恐る恐る顔をあげると赤司が手招きしていた。
ここで渋ると機嫌を損ねるのは確実だったので@@は這うように赤司に近づいてその隣に腰を落ち着ける。引けていたが。
途端、緩く@@の肩にかかる重み。赤司の頭が@@の肩に預けられていた。声にならない叫び第二段。


「ああああかっ赤司、」
「後悔しているのか」
「へっ」
「僕を、抱いたことだ」



赤司の声は消え入りそうなほど小さかった。



「えっと、その」
「男に抱かれるなんて初めての経験だった。この僕でも至らない点があっただろう。…嫌になったか」
「いや、そういう、わけでは」
「初めてでもお前とならいいと思ったんだ」


@@は嫌悪した。赤司にではなく、自分に。
あの赤司にこんな顔までさせて自分は何も覚えていない。なのに考えることといえばここをいかにうまく切り抜けるか、そればかり。
募る罪悪感で心臓が潰れそうだった。
歯を食い縛り、@@は赤司の肩を付かんで引き離し真っ向から見据えた。赤司の顔が絶望と悲嘆で歪んでいる。


「やっぱり…」
「違う!!!その、ごめん!ごごごめんなさい!!!」
「それは何に対する謝罪だ?」
「……昨日のっ…!ことを…!!覚えてないことに対してです!!」


すいませんでしたぁあああ!!!
@@はベッドから飛び降りて床に額をこすりつけて土下座した。
ほう…と頭上から落ち着き払った声が聞こえたがここで引き下がるわけにもいかない。


「ほんっとに何したとか覚えてないけど…!赤司のことはいやじゃなくて、むしろせっかくやったのに何も覚えてなくて残念……違う!こういうことが言いてえわけじゃない……!」
「ふうん、…で、@@はどうするつもり?」
「責任を取る!い、一生賭けてもいい!だから!」



まずお付き合いから始めさせてください…!!
@@はさらに額をめりこませて土下座し続けた。
去勢されても、命がなくなっても、誠意が伝わればそれでいい。
赤司にあんな顔されるよりずっといい。


「よく言った」


ぴろん。
この場に似つかわしくない電子音。
土下座したまま目を数回しばたかせ、顔を上げると赤司が満足そうな顔で携帯をいじっていた。


「……は?」
「これでお前はもう僕のものだな」
「え、あの…意味が…」
「責任を取ってくれるんだろう?」


かち、とボタンを押す


《責任を取る!い、一生賭けてもいい!》
《だから!まずお付き合いから始めさせてください…!!》


携帯から聞こえてきたのは@@の一世一代の大告白。
さあっと@@の血の気が引いていった。


「一生賭けてもらおうじゃないか」
「え、あの、赤司なんで」
「@@」

「既成事実という言葉を知っているか」


@@の大告白が録音された端末を口元に当てて、赤司がそれはそれは妖艶な微笑を浮かべる。

「僕はお前を手に入れる為なら手段を選ばないつもりだった。生半可なやり方じゃあ、手に入らないことは十二分に理解していたからね」
「え…あの…話が……見えない……」
「安心しろ。@@は僕に何もしていない」


自然と赤司を見上げる形になっている@@の顎が赤司の指先で掬われ、汗ばんだ頬を撫でられる。
何も…していない?

「だって…何も…きてない……」
「僕が脱がした」
「じゃあ俺無実…?」
「そうだね。@@は無実かもしれない」


いよっしゃあああああああ!!!!
@@は内心両手で強く強くガッツポーズを取っていた。なーんだやっぱりパジャマパーティーがちょっと白熱しただけだったんだ!思わせ振りなこと言いやがって!ぶん殴るぞ!いや嘘無理!


「まあでも」

頬を撫でていた指が、再び顎に触れ半ば強引に引き寄せられた。
緊張のせいかかさついた唇にやたらやわいものが押し当てられたことを理解する前に彼の髪のように鮮やかな赤い色の下が@@のそこをなぞった。至近距離で赤司が囁く。


「僕が何もしていない、とは言っていない」
「…………ぁえ?」


お前の体が丈夫でよかったよ。



あかしとあやまちをおかそう!
(つまり責任を取らないといけないのは僕だ)
(……お゙っ!?)

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