ゲーセンへ行こう(赤司



「待って☆お願い待って☆」
「この機械に人工知能なんか搭載されてないと思うから言ったところで無駄じゃないか?」
「お前に言ってんだよどうすんだよこれ」


これ、と彼が指差すのは僕たちの目の前にある機械。排出口からけたたましい音を立て湯水のごとく流れ出す金鍍金のコインである。どうすると言われてもただ絵柄を並べたらリーチだの大当たりだの言われただけだし、しかもこのゲームはそうやって稼ぐものなんじゃないのか?


「なんだよ、こんなに当たるんだったらお前連れてカジノで一攫千金目指したほうがよかった」
「残念だがカジノは未成年立ち入り禁止だよ。まあでもお前がどうしてもと言うならカジノを経営してる父の知り合いに掛け合ってあげよう」
「行けるなら行きたいけど条件は?条件あんじゃねーの?」
「行くなら同性婚が認められている国に限るってだけさ」
「いやあ一攫千金とか夢で終わるから美しいんだよね、そうそう」
「遠慮するな」
「拒否ってんだよ」


14個目のコインを入れるカップが満杯になって、僕らの足元は金貨満載のカップで埋め尽くされている。


「おい、確変だぞ」
「えーーー!!!さっきなったばっかじゃん!!!まだ出んの!?」


何をそんなに驚くことがあるんだろうか。たかだか7を三つ揃えるくらいちょっとタイミングを測れば誰にでも出来る。やり始めたときは流れ出る金貨に目を輝かせていたのに今何故か彼は金貨をかき集めてはげっそりしている。おかしいな、こんなはずじゃなかった。


「お菓子ね、めっちゃいっぱい取ってくれたよ」
彼が全部取ってくれたんだと敦が腕一杯に菓子を抱えて嬉しそうに言っていた。


「一緒に撮ったんです。一生大事にしようと思ってます。ていうかします」彼と二人で撮ったプリクラとかいうものをテツヤに自慢されたときはシールをハサミで細切れにしてやろうかと思った。


「もう躍り方とかすっごい不格好だったんスけど、なんかそこがかわいくってぇ!!」
涼太はとりあえず殴った。


「あと一歩で青峰くんとの仲を取り持てたんだけど…」
「あそこで!あそこで俺がバナナの皮なんか食らわなきゃよォ!!畜生!!」
桃井と大輝は何かの賭けに負けたらしいがいつかまた再戦するんだと次回の確約に意気込みを見せていたし

「馬鹿すぎるというのも度が過ぎれば魅力に見えるものなのだよ。いや別にあいつのことを言っているわけではなくて」
理由は言わないくせに何か勝ち誇った顔をしている真太郎には腹が立ったので言い訳を並べ立ているうちに王手を取って黙らせた。


全員彼とゲーセンでああしたこうしたと嬉しそうに言うから、少し、悔しくて彼を楽しませるくらい造作もないことだと僕も彼をこうして誘ったわけだったが。


「ねえなんか店員がすっげー顔してっからやめないこれ…」


そうか、これが現実か。



「……帰るか」
「え、なんで。来たばっかじゃん」
「お前があまり楽しそうに見えないからね」


出来ないわけがないと思っていたがそもそもゲームセンターなんて来たことがない。見よう見まねでやってみたが一番の目的であるお前を楽しませることができないならいる意味はない。

わざとルーレットの絵柄を外して並べ当たりを止めた。まだ金貨は流れているがそのうち止まるだろう。
これからどうするか、と思慮していたらふいに横からぱちん、と小気味良い音がして彼が左手の甲の上に右手を乗せて僕の目の前に突き出してきた。


「コイン投げた。表と裏どーっちだ」
「何だい、急に」
「赤司が当てたら今日は帰る。外したら俺の言うこと聞けよ」

にやにや嫌らしい笑みを浮かべながら彼は「自信ないの〜?赤司ともあろうものが〜?」と挑発してくる。
ふむ、キャッチするところを見ていれば一発で当てられたが如何せん投げる瞬間を見てなかった。この僕に勘でやれと促すとは。


「じゃあ…………表」
「ヒャッハー!!残念裏でしたァ!!俺の勝ちな!」


手の甲に乗せられた金貨に刻まれた星の模様を見せつけて彼は今日で一番嬉しそうな顔をしている。
その手から金貨を奪い取り、表と裏をひっくり返して溜め息をついた。


「表も裏も絵柄が一緒じゃないか。僕にイカサマするなんて」
「バレなきゃイカサマじゃねーのよ」
「今バレた」
「何百枚も見てたくせに覚えてなかった赤司が悪いわけ。俺の勝ちは揺るがねえぞ」

どんなこと聞いてもらおうかなあ、と悪戯が成功した子供のように無邪気な笑顔を浮かべて彼は金貨の山を大きく跨いでいく。


「楽しくないなんて言ってねえからな」
「!」
「お前ばっか当たってんのが癪なだけだ。つーわけで格ゲーしようぜ、俺負けねえからよ」


最初からそう言っていたら賭けなんかする必要なかったのに。
素直じゃないな、お前も。僕も。



「僕が負けるわけがないじゃないか」
「今負けたじゃん」
「イカサマなんかノーカウントに決まってるだろう」


キセキゲーセン
(typeA)


(お前初心者とか嘘っぱちだろ!!)
(どうした経験者、勝ててないじゃないか)
(負けてもねえし。引き分け23回目だし)
(賭けようか。イカサマしてもいい)
(しない、やだ)

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