ゲーセンへ行こう(緑間
数学の小テストが明日に控えている。
平均点を取れなければ追試、という予告もされている。「山勘教えろください」頼む気があるのか無いのか眉間に皺を寄せながらこいつは俺を拝むように手を合わせていたのに
「バスケットボールでゴールの上からボールを叩き込むシュートを○○○シュートという…あれか、お前がやるやつ…スリーポイント…あれ、文字はいんねーぞ」
「馬鹿者。ダンクだ。た…た…」
「押すのおせえよ!」
何故ゲームセンターにいるのだよ。
答えがわからないくせにタッチパネルの操作だけはかなり早いこいつは俺を押し退け素早く回答を入力していく。制限時間はギリギリだったが正解したことに大袈裟に喜んでいた。単純なものだ。
「っかーぜんっぜんわかんねー!」
「常識問題しか出ていないのだよ」
「俺に常識求めんなよ」
「非常識であることに胸を張るな」
俺たちがやっているこのクイズゲームの出題レベルは俺からしたら低い。
わからないことがわからない次元だ。相手がこいつでなければ知恵を貸すなんて面倒なことはしない。
「数学わかんない!え、いくつ?これ答えいくつ?」
「36」
「…おお、ほんとだ。すげえな緑間」
「…ふん」
世辞抜きで尊敬の眼差しで見られている。悪い気はしない。
他力本願という言葉を知らないのか、勉強面等の頭を使う事柄以外人に頼らないこいつに頼られるのは俺ぐらいだろう。…赤司を除けばだが。
だが今ここに、こいつの隣にいるのは俺だ。どうだ赤司、出し抜いてやったぞ。
「なに一人で笑ってんのきもちわる…」
「!?わ、笑っていないのだよ!」
「ねえ知ってるぅ〜?思いだし笑いする奴ってむっつりなんだよ」
「お前の裏声のほうが気持ち悪い」
「ぶつぞてめえ」
言ったそばから脇腹を肘で小突かれ息が一瞬詰まった。
こいつ…!!自分の腕力がどれだけ強いかわかってるのか…!!
これでも加減している方なのだろうが、青峰だとか黄瀬のように打たれ強い体じゃないのだよ俺は!
やり返してやろうかと思って右手を振りかざしたが既にこいつは画面の問題に釘付けになっていてここで殴ったら卑怯にも不意打ちをかました扱いになりそうで腕を下ろした。
というか、今さらなのだが
(距離近すぎないか)
二人掛けの椅子に大の男が肩を突き合わせて座っているこの現状。言い合ったり小突いたりしていたために距離を考える間もなかったわけだが、意識するとこの近さは心臓に悪い。
「(かっ考えろ緑間真太郎…この状況をうまく使う方法を…いや別にやましい気持ちとかがあるのではない、こいつをこれからうまく扱っていくために懐柔しておきたいと思ったからであって…肩でも抱いておくか…?い、いや!黄瀬や青峰じゃあるまいしそんな軽率な…ことは…)」
「えー何これわっかんね。おい緑間これ答えは?」
「(紫原あたりならもたれかかってそうだが…だから!そういう不埒な行動はしたくないのだよ!)」
「おいねえ聞いてる?これ難しいの?」
「(赤司なら…ぐぅ、奴の模倣をするなどもっての他なのだよ…!!)」
「あ、ああー…時間が…」
ブーッという間抜けな電子音でハッと我に帰る。いつのまにか問いが出題されていて、いつの間にか時間が切れていた。
「こんな簡単な問題が何故わからないのだよ」
「お前が黙ってたからだろーが!俺のせいすんなよ!」
「少しは自分で考える努力を…!」
「ほら!ほら!もう次始まるから!」
こんないい加減な奴の為に俺の思考が奪われていたのかと思うと腹が立つ…
考えれば考えるほどこの男のことがわからない。
わからないものに惹かれている自分が一番わからない。
「小説家、夏目漱石が英語教師をしていたとき生徒がアイラブユーを我君を愛すと訳したのを聞いて彼が訂正したアイラブユーの意訳とは…○○が綺麗ですね?あん?アイラブユーはアイラブユーだろ」
「下手くそな発音だな…」
「うるせえな!答えは!」
「……お前は何だと思う」
「しらねーよ!」
「少しは考えろ!」
何でもすぐに答えを聞くようじゃこいつの将来は暗い。
「んーーー…!!!」
まあ、考えろと言えば考えるだけまだマシか。
ろくな答えは期待し
「"お前のほうが綺麗ですね"?」
ゲームセンターの騒音どころか俺の心音まで聞こえなくなった。
何でお前は俺を真っ向から見て言うのだよ。
「つっ……月!!」
「は?つき?」
「月が綺麗ですね!なのだよ!!」
「なんだよわかってんなら最初から言えよな」
ぶつくさ呟くこいつから顔を背けて喧騒と共に戻ってきた早鐘を打ち鳴らす心臓を痛いくらいに押さえつけた。
誤答ごときに翻弄されて、あまつ喜んでいる自分をしこたま殴りたかった。
キセキとゲーセン(ver,S,M)
小テストのことなどすっかり忘れて遊び呆けたこいつは後日赤点をとって再び俺に泣きついてきた。
(月が綺麗ですね緑間!!だから追試問題教えろください!)
(!?)
また一つずる賢くなった!▼