ゲーセンへ行こう(紫原



ガタガタガタガタ!!ビーッ!ビーッ!!

《機体を揺らさないでください!》

「じゃあ落ちろよ」

紫原はクレーンゲームに向かって悪態をついた。
薄いガラスの向こう側にはお菓子たちが食べて食べてと山積みになって内部をくるくる回っているのに肝心のクレーンがチョコの一粒さえまともに掬い上げてくれない。取り出し口の前の山さえ崩せば大量のチョコレートが手にはいるはずなのに



チャリン


ウィー…


「落ちないし…!!」


二メートルを越えた大男がクレーンゲームに張り付いているだけでも圧巻なのに人一人殺せるような形相で機体を叩くとほんともう洒落にならない
ついに隣でプレイしていた子供が母を泣いて呼びながら逃げ出した。


「(もうお金ない…)」


財布を逆さまにしても出てくるのはコンビニのレシートばかり。
あんなに頑張ったのに成果はゼロ。泣きたくなってくる。いやすでに紫原の目尻は水分で湿っていた。


「これくらいで泣くなバカ」


チャリン


ぬう、と紫原の背後から腕が伸びてきた。振り返る間もなく、しゃがめと肩を下に押される。膝を折り、機体に顎をつける要領でかがむと上の人影は紫原の顔の横に手をついてボタンを操作しはじめる。

なんだか後ろから抱き締められているような感覚がして正直ドギマギしている自分がいた。見えない。と今度は頭のてっぺんに顎が乗っかってきた。
近い。
いつも見おろしてばかりだし、抱きつくのも自分から。
包まれる、というのはこういう気分なのか。慣れない。
でも悪くない。


「はい俺天才」


そばに感じていた暖かさがふいに離れて拍子抜けした。
取り出し口から溢れんばかりのお菓子が滝のように流れ落ちてくる。


「……なんでそんなに上手いの」
「まあ俺だからな。なにその不機嫌そうな面。いらねえのか」
「いる……けど」


もうちょっと苦戦してくれたら暫くあの体勢でいられたかな

キセキとゲーセン(typeM)

(んー…でもやっぱこっちが落ち着く)
(重い。離れろ)
(でもちょっと物足りなくなったような)
(敦どうしよう菓子袋に入らん)
(またしてほしいかも)
(もう100円ねーから)
(そっちじゃねーし)

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