C




「いってらっしゃいかあさま!」
「ああ。征華もいっておいで」
「いってきまーす!」


車を降りた娘は手を千切れんばかりに振って一目散に幼稚園に駆けていった。今日も元気で何よりだが、元気すぎて年長組の男の子をこてんぱんにしたなんて報告がまた幼稚園からされないことを願う。


(少し大人げ無かったな)


今はない角があった場所を擦って赤司は苦笑した。
娘に教える前に自分が制御できていなければ話にならない。
でも@@に関して形振り構っていられなくなるところはどうやっても直しようがなかった。

ハンドルに持たれて思慮していたら、ここで携帯に着信が。
なんというタイミングか。相手はその思慮の対称であった。


「もしもし」
《あ、もしもしー言い忘れたんだけど帰り卵買ってきて》
「……@@」
《あ?何。別に高いのは買ってこなくていいからな》


普段と変わらない@@の声色に胸が締め付けられるように痛んだ。
愛しい、世界で一番。この男を前にするとどんな愛の言葉も陳腐にしか伝えられないような気がしてならない。

「好きだよ@@、愛してる」
《ええー…何急に…》
「@@は」



「俺を愛しているか?」



数年前のプロポーズ。あの話には少し続きがある。




『何でお前が言うんだよ…』


あの時、@@は顔を歪め不信感を丸出しにしていた。
死ぬかと思った。

断るはずがない、断らせるはずがないじゃないか。
絶対的な自信を胸に赤司は想いを伝えたが本当は不安でたまらなかった。
口ではなんとでも言える、ある程度の命令が罷り通ることだってわかっていた。



『いやとは、言わせな……っ…』



喉の奥がひきつって、言葉がうまく出てこなかった。
思考が入り乱れて上手いことなんて何も言えない。冗談だよなんて茶化す気もなかった。この気持ちを冗談になんて出来ない。


『…泣くなよ、赤司』


唇に赤が滲むくらい歯を突き立てても痛みにすら意識が持っていけなかった。



『こんなはずじゃ、なかった…でも、もう、無理だ』
『何が』
『…っお前、なしに、生きていこうと思えない…!』


情けないなと赤司のなかで誰かが嘲笑った。
そんな誰かに赤司は問う。ならお前は@@がいなくて生きていけるのかと。誰かに奪われて平常心でいられるのかと。断られてものうのうと暮らしていけるかと。返答はなかった。


『俺でいいと、言ってくれないか。@@』

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -