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緑間が座っている側の背もたれに腕を回し、@@は至近距離で訴えた。@@は知っている。緑間がこういう至近距離からの攻撃に弱いことを。真っ赤になって「近い!!」と騒ぎ立てて、離れるからわがまま聞いてよ〜という言い分が大抵罷り通るのだが。


(あ、あれ…)


緑間はうんと目を細め眉間に皺を寄せながら顔を全くそらさない。
それどころか膝の上に本を置くとじょじょに距離をつめてくる。
極めつけにガッ!と顔を両手で掴まれた。


「これは顔か」
「ちょっ!おおっ!?」
「この距離だとよく見えないのだよ」
「ま!待って十分近…!!近いっ…!!!キャーーーッ!!」


思いきりのけ反ったら勢いのせいで@@はソファから転がり落ちてしまった。上で何が起きた!?とか言ってる緑間は下で@@が心臓をバクバクさせていることに気付いていない。


「勘弁して!お願い眼鏡かけて!!」
「断るのだよ」
「一生のお願いだから!!ねえ!俺の気持ちにもなってよ!」
「そのまま返す」
「返すな!わかんねえだろ俺の気持ちなんか!眼鏡かけてないと緊張すんの!!」
「は?」


床に這ったまま未だ皮膚の下でバンバン早鐘を打ちならしてくる心臓を押さえ付けて@@はがなった。
ああ言いたくなかったのに…と@@は頬をべったり床に張り付けて呻く。


「裸眼の威力を知らねえだろお前…俺が今までどんだけ頑張ってきたか…」
「なんのことだ」
「結婚したら慣れるかと思ったけど慣れねえよ、俺は毎日頑張ってんだよ」


日々の努力が報われなくて、@@は泣き出したい気持ちでいっぱいだった。
緑間が苦悩しているだけかと思われたこの新婚生活、悩んでいたのは何も彼だけではなかったのだ。


「ちゃ……ちゃんと説明しろ」
「だっ、だから…お前が眼鏡かけてねえと照れるんだよ…」
「なんなのだよそれは」
「俺だって知らんわ!」


朝、眼鏡をかける前の緑間が寝ぼけ眼を擦っているとき@@が心中わめきたてていることを彼は知らない。
そういう所を見れるのは自分だけだと無意識下で@@がはにかんでいることも、それを隠そうとしていることも。


「悔しいだろ、俺だけバカみてえじゃん」








んなわきゃない。



「…眼鏡」
「は?」
「俺の鞄の中だ。出せ。@@の顔が見たい」
「ふふふふざけんな!なんで今!!」
「なら自分で取るのだよ!」
「やめなさいよアンタ!!」


緑間が覚束ない足取りでソファを立った。記憶を頼りに霞む視界の中鞄を探しはじめてしまったので@@が慌てて牽制する。
中腰で押さえ付けお互いもみくちゃになるが必死すぎて今自分達がどうまってるかなんて省みている暇はなかった。


「離すのだよ!」
「嫌なのだよ!!!」
「真似すっ……!!」


力は@@の方が強い。その@@が思いきり引っ張れば緑間が倒れ込んでくるのは至極当然のことだった。
今@@は床の上に尻餅をついていて、緑間がその上に覆い被さる形で事態はとりあえず落ち着いた。
再びやってきた至近距離の世界に@@の目がクワッと見開かれる。
弾かれるように@@がまた後ずさろうとしたので、緑間はその背中を締め付ける勢いで抱きしめて拘束した。

人間、必死になるとツンなんか忘れるもんである。



「そのまま、動くなよ」


締め付けていた腕を片方解いて、緑間は@@の後ろにあった自分の鞄から手探りで眼鏡を引っ付かんだ。
プルプル震えている@@を横目に、久方ぶりの眼鏡をかけてみれば瞬く間にクリアになった視界。ピントを合わせるために何度か瞬きをして@@を見れば、予想外に真っ赤になった顔がそこにあった。


「…そんな顔になるとは、珍しいこともあるのだよ」
「うるさい…」
「@@」
「なによ……」
「…その、俺の名前を、…呼んでみろ」
「はあ?」


@@が目をパチクリとさせて、首を傾げながら唇を真太郎のし、の字に型どった途端湯だったように緑間の顔が赤くなった。


「まだ言ってねえよ!!」
「か、考えただけでダメだったのだよ…!!」
「弱ァ!」
「だから!!…何も、@@だけなわけじゃない」


顔を見なければ我慢できるかもしれない。
目がどこにあるのかわからなければ、照れ隠しなんてせずに済む。
でもダメだ。どうやってもダメだ。



「@@の顔が、どうしても見たくなる」
「し…真太郎……」


吐息が触れ合う距離で名前を呼ばれて、緑間の肩が強張ったが彼は耐えた。唇を噛みながら、@@の服を握ってもっと呼べと言う。


「…真太郎」
「……何だ」
「真太郎」
「………」
「好きだ」
「…!…っ…!!お、俺もだ」



畜生、と@@が耳元で呟いたのが聞こえたら床の上に押し倒されていた。顔は真っ赤だし泣き出しそうな情けない顔がよく見える。
デレんなよ、急に。蚊の鳴くような声で言った@@の唇を悪いかと言って塞いだ。

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